強制は違法? 居留守を使って家宅捜索を拒否したらどうなる
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テレビニュースや新聞記事に目を向けると「家宅捜索」という用語がたびたび登場します。
たとえば平成28年には、基地への飛翔弾発射事件に関連して、豊島区・立川市・横浜市の3カ所で家宅捜索がおこなわれ、重要な証拠品が発見されたと報じられました。
刑事事件を起こすと、警察による家宅捜索を受けるおそれがあります。しかし、家宅捜査は予告なくおこなわれるものなので、突然の訪問に驚いてつい居留守をしてしまうケースも考えられるでしょう。
もし、居留守を使って家宅捜索を拒否した場合どうなるのでしょうか。本コラムでは、「家宅捜索」の際に居留守・拒否をした場合にどのようなことが起きるかについて、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、家宅捜索が来た! 居留守を使うとどうなる?
警察による「家宅捜索」は、容疑をかけられている本人や同人ともに生活をしている家族などにも予告なくおこなわれます。思いがけず警察官が訪ねてくるので、つい居留守を使ってしまったり、実際に仕事などの都合で留守にしていたりすることもあるでしょう。
警察が家宅捜索に来たとき、居留守を使ったり、留守だったりした場合、どうようになるのでしょうか?
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(1)令状の有効期限がある限り何度でも家宅捜索に来る
家宅捜索は、裁判官が発付した「捜索差押許可状」という令状を根拠として実施されます。
そもそも「家宅捜索」という用語は、ニュース・新聞などで用いられるマスコミ用語です。正確には、容疑者の自宅や関係先に立ち入って証拠品を捜す手続きを「捜索」、発見した証拠品を押収する手続きを「差押え」といいます。捜索と差押えをセットで実施することから「捜索差押」といい、これを許可する令状が捜索差押許可状です。
捜索差押許可状には、発付の日から7日間の有効期限があります(刑事訴訟法規則300条本文)。7日間の間はいつでも捜索差押を実施できるので、居留守を使ってやり過ごしたとしても有効期限内の家宅捜索の回数に制限はないものと考えておかなければなりません。
なお、捜索差押許が許されるのは、原則として、日の出から日没までの時間です(刑事訴訟法(以下、法令名は省略)116条1項)。もっとも、令状に深夜帯でも執行できる旨の記載があれば、深夜や日の出前の早朝であったとしても、捜索差押等をじっしすることができます(116条2項)。
実際は、捜査機関の要求によって、夜間執行の許可が取り付けられるのが定石です。
また、令状の有効期限が7日間であれば、「7日間にわたって居留守・留守を続ければ家宅捜索から逃れられる」と考えるかもしれません。しかし、捜索差押許可状などの令状は、有効期間内に令状の執行ができなかった場合、捜査機関が再度令状の請求をすることも考えられます。そのため、現実的には有効期限の経過を理由とした令状執行の回避は難しいと考えるべきでしょう。 -
(2)居留守を使っても立ち入られる
家宅捜索の際には、かならず「立会人」が必要です(114条2項)。捜査機関が令状の内容を適正に執行しているか否かを監視する必要があるために定められた規定です。
同114条2項が想定しているのは「住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者」による立ち会いであり、容疑をかけられている本人に限りません。
たとえば、本人や家族などが留守でも、アパートの大家や管理人などに立ち会いを依頼し、施錠していても合鍵やマスターキーで開けてもらって家宅捜索を実施することがあります。また、114条2項は、住居主などによる立ち会いができないときは「隣人又は地方公共団体の職員」による立ち会いを義務づけているため、居留守による執行の回避は通用しません。
居留守を使っていると、屋内に潜んでいるところを発見されてしまうことになるでしょう。
2、家宅捜索は拒否できる? 強制的に入るのは違法じゃないの?
家宅捜索は前触れなく実施されます。突然、自宅を捜索されるわけですから、拒みたくなる方がいるのは当然です。
また、家宅捜索は受け入れるとしても、他人に見られたくない物や事件と無関係の物もあります。
では、家宅捜索の拒否は可能なのでしょうか。また、強制的に捜索するのは違法にならないのでしょうか。
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(1)裁判官の許可があるので拒否できない
日本国憲法第35条は、「正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ」という条件付きで、すべての国民について、住居・書類・所持品について、侵入や捜索、押収されない権利を保障しています。ここでいう「令状」とは、捜索差押許可状を指します。
つまり、裁判官が審査したうえで「捜索・押収してもよい」という許可を下している以上は、住居の不可侵が保障されません。令状の発付を受けた警察は、立ち入りや押収を拒まれたとしても、強制的に捜索差押を執行することができます。
また、犯罪に無関係な私物が散らかっているなどの理由で「あとで来てほしい」などと求めたとしても、聞き入れてもらえません。証拠品の発見・確保という捜索の目的に照らすと、その間に証拠品を隠滅されるかもしれないと疑われてしまうだけです。
ただし、これはあくまでも裁判官が発付した令状がある場合に限られます。捜索差押許可状の発付を受けていない、あるいは令状はあるが警察署に忘れてきたといった状況であれば、家宅捜索を受けいれる必要はありません。
もし、令状もないのに警察官が無断で立ち入ろうとした場合は、その状況をスマホのカメラなどで記録し、捜索が違法であることを証拠化しておくことをおすすめします。 -
(2)妨害すると犯罪になる危険もある
捜索差押許可状の提示を受けて捜索が執行されると、一切の妨害は許されません。適法に執行されている捜索を妨害すると、刑法第95条1項の「公務執行妨害罪」が成立する可能性があります。
このように、すでに疑いをかけられている犯罪とは別の犯罪で逮捕されてしまうおそれがあるので、捜索中の警察官に暴力を加える、腕や服を引っ張る、立ちふさがって抵抗するなどの行為をしないように注意しましょう。
3、家宅捜索を受けたあとの流れ
家宅捜索を受けると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを確認します。
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(1)逮捕または任意の取り調べが進められる
家宅捜索によって重要な証拠品が発見されると、犯罪の嫌疑がさらに高まります。警察は、捜索差押許可状と同時に逮捕状の発付も受けている場合もあるため、捜索の前後にて逮捕される可能性も考えられます。
また、証拠品の発見には至らなかったとしても、直ちに事件の容疑を晴れるわけではありません。後日、警察署への任意の同行を求められて取り調べを受ける可能性も考えられます。 -
(2)検察官に事件が送致される
警察による捜査が終了すると、事件は検察官へと引き継がれます。
この手続きを「送致」といいます。
逮捕された場合は逮捕から48時間以内に検察官へと送致されますが(刑事訴訟法203条1項)、任意の在宅事件であれば時間制限はありません。
送致以降についても、検察や警察からの呼び出しを受け、基本的には取り調べに応じることになるでしょう。 -
(3)検察官が起訴・不起訴を判断する
逮捕された事件では、最長20日間にわたる勾留期間の中で、検察官が起訴あるいは不起訴を決定します(208条1項及び2項)。
起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは刑事裁判を見送るという刑事処分です。在宅事件の場合は、起訴・不起訴の決定までにタイムリミットがありません。
なお、在宅のままで起訴されることを「在宅起訴」といいます。 -
(4)刑事裁判が開かれる
基本的には、起訴からおよそ1か月後に初公判が開かれることになります。初公判以後については、約1か月に一度のペースで公判が開かれて、最終回の期日には判決が言い渡されます。
事案が簡明な事件であれば、初公判から判決言い渡しまで約1か月、複雑な事件なら半年から1年近くの時間がかかる場合もあるでしょう。
100万円以下の罰金、科料に相当する事件については、刑事裁判の手続きを簡略化した「略式起訴」を受けることもあります(461条)。略式起訴された場合は、公判が開かれないまま迅速に裁判が終わる上に、罰金もしくは科料が言い渡されるので、懲役や禁錮のように刑務所へと収監されずに済みます。
ただし、罰金や科料の刑罰であっても、有罪として前科がつくので、慎重な判断が必要です。
4、家宅捜索に弁護士の同席・立ち会いは認められる?
家宅捜索と聞けば、警察の自由な判断によって、家中を探し回り、事件との関係性の有無にかかわらず物が押収されるのではないか、と想像する方は少なくないでしょう。
しかし、裁判所が家宅捜索を認める際は、捜索差押許可状に「捜索すべき場所」や「差し押さえるべき物」等を明記しているので(219条1項)、事件と無関係な場所や物に対する捜索差押は許されません。
また、令状のない家宅捜索は原則として違法です(例外として逮捕に伴う捜索差押(220条)があります)。
警察による過剰な家宅捜索を防ぐためにも、弁護士に相談をしてサポートを求めましょう。
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(1)依頼があれば逮捕前の家宅捜索に同席できる
弁護士に依頼すれば、逮捕前におこなわれる家宅捜索への同席をすることも考えられます。家宅捜索の法的な根拠やルールを理解している弁護士が同席をして警察を監視することで、無令状の捜索や許可対象になっていない場所・物の捜索差押を防ぐことができます。
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(2)逮捕後の家宅捜索も立会人としての対応できる
事件を起こして現行犯逮捕された、あるいは逮捕後の取り調べで新たな証拠の存在が疑われたといったケースでは、逮捕後でも家宅捜索が実施されるケースもあります。
この状況では、容疑をかけられた本人は逮捕されているので、残された家族やアパートの大家・管理人、隣人などを立会人として家宅捜索が進められるのが一般的です。
弁護士に相談すれば、刑事訴訟法が定める立会人として家宅捜索への立ち会いを依頼することができます。不当に捜索範囲を広げられたり、差押が許可されていない物品を押収されたりする事態を防止できるだけでなく、大家や隣人を立会人とすることで生じる無用なプライバシー情報の流出の回避も期待できるでしょう。 -
(3)家宅捜索後のサポートも可能
家宅捜索がおこなわれたあとも、警察・検察官による捜査が続きます。どのような証拠品が押収されたのかによって検察官の判断に影響を及ぼしますので家宅捜索後の対応も重要となります。
早い段階で弁護士に依頼すれば、家宅捜索への対応だけでなく、家宅捜索の結果も踏まえた弁護活動が期待できます。被害者との示談交渉や捜査機関・裁判官への積極的なはたらきかけによって不起訴や執行猶予つきの判決といった有利な処分が得られる可能性も高まるでしょう。
5、まとめ
「家宅捜索」は法律にもとづいて裁判所が許可している強制処分なので拒否できません。居留守を使ったり、実際に留守だったりしても、警察側が立会人を用意して家宅捜索を進めることになります。
このように考えると、居留守による回避は現実的ではありません。不当な捜索や証拠品の押収に対抗するには、弁護士への依頼が効果的です。
刑事事件を起こしてしまい、家宅捜索を受ける事態になった場合は、ただちにベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。場合によっては立会人として家宅捜索に同席し、警察による違法捜査を監視しながら、有利な処分を得るための弁護活動を尽くすことも可能です。
また、家宅捜索を受けるかどうかわからない状況であったとしても、弁護士に依頼することによって、家宅捜索の可能性や家宅捜索に対する対応等の適切な助言を受けることができます。まずは弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています