あおり運転が厳罰化! 妨害運転罪の罰則や定義を弁護士が解説
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令和2年7月、都内の道路で前方を走行する車を必要な車間距離を取らずに追い掛けるなどの「あおり運転」をした道路交通法違反容疑で、都内在住の会社員が書類送検されました。
過去にも悲惨な死亡事故を引き起こし社会問題にもなったあおり運転は、言うまでもなく交通事故を起こしたり他人に身体的な危害を加えかねない危険な運転です。このような社会情勢を受けて、道路交通法の改正によりあおり運転に対する罰則が創設され、実質的に厳罰化されました。
あおり運転は危ない行為であるとは知りつつも、運転している最中についカッとなってしまうこともあるかもしれません。
本コラムでは、厳罰化された改正道路交通法におけるあおり運転に対する罰則と、あおり運転をたときに考えるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転に対する罰則が創設
あおり運転と聞いては、以下のような行為を想像する方がほとんどでしょう。
- 前方や横を走る車と異常なほど車間を詰めること
- 前方を走る車に対して必要以上にクラクションを鳴らしたり、追い回したりすること
上記のようなあおり運転は、これまでも道路交通法における「安全運転義務違反」、「車間距離保持義務違反」、刑法における「暴行罪」などで規制されていました。
しかし、あおり運転による悲惨な事故が発生する状況を受け、あおり運転に関する行為を厳罰化する行為改正道路交通法が令和2年6月2日に国会で成立、6月30日から施行されています。
今回の法改正のポイントは、あおり運転を直接取り締まるための「妨害運転罪」が創設され、罰則が強化されたことです。
この妨害運転罪が適用されると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、行政処分として違反点数が25点となり即免許取消処分、2年間の免許欠格となります。
さらに、あおり運転により「著しい危険」を生じさせた場合は、最大で5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科され、行政処分として違反点数が35点となり即免許取消処分、免許欠格期間は3年となります。
2、あおり運転の対象となる10類型
今回の法改正で明確に定義されたあおり運転は、以下の10類型です。
- 逆走や違法な路側帯および歩道通行などの通行区分違反(道路交通法第17条第4項)
- 不必要に急ブレーキをかける(同法第24条)
- 不必要に車間距離を詰めた走行(同法第26条)
- 割り込みなど急な進路変更(同法第26条の22)
- 危険な追い越し(同法第28条1項および第4項)
- 不必要なハイビームや執拗なパッシング(同法第52条第1項)
- 不必要かつ執拗なクラクション(同法第54条第2項)
- 蛇行運転や幅寄せなど、安全運転義務違反(同法第70条)
- 高速道路における不必要な駐停車(同法第75条第81項)
- 最低速度違反(同法第75条の4)
上記の行為を故意で、通行妨害目的で交通の危険のおそれのある方法によってした場合は妨害運転罪が成立するため、注意が必要です。実際に、人身事故や物損事故が実際に発生している必要はありません。
なお、妨害運転罪が成立する決め手は、近年普及しているドライビングレコーダーに録画された映像が決め手になるケースが多いようです。
3、あおり運転で相手を死傷させるとどうなるのか
それでは、もし、あおり運転をしたことで、相手がケガまたは死亡した場合、どのような処罰を受けることになるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
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(1)刑事上の処分
もしあおり運転で相手を死傷させてしまった場合、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷処罰法)が適用される可能性が高くなります。
自動車運転死傷処罰法では、「危険運転致死傷罪」および「自動車運転過失致死傷罪」という2つの罰則規定が設けられており、あおり運転によって相手を死傷させた場合、「危険運転致死傷罪」が成立することになるでしょう。
なお、自動車運転死傷処罰法は令和2年7月2日に改正法が施行され、危険運転致死傷罪の対象となるあおり運転行為が追加されました。従来のものと併せて、危険運転致死傷罪が適用されるあおり運転は以下のとおりです。- 人または車の通行を妨害する目的で、走行中の車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為
- 車の通行を妨害する目的で、走行する車の前で停止する、著しく接近するなどの運転行為
- 高速道路や自動車専用道路で車の通行を妨害する目的で走行中の車の前で停車するなどし、走行する車を停止・徐行させる行為
危険運転致死傷罪の法定刑は、以下のとおりです。危険運転致死傷罪で起訴されたときには、この法定刑を基礎として判決が宣告されることになるでしょう。
- 相手を負傷させた場合……15年以下の有期懲役
- 相手を死亡させた場合……1年以上の有期懲役
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(2)民事上の損害賠償
民法第709条では、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。
また、民法第710条では、「他人の身体、自由もしくは名誉を侵害した場合または他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定しています。
あおり運転で相手を死傷させたり相手の車を損壊させた、あるいはあおり運転をされたことにより相手が精神的な苦痛を受けた場合は、被害者である相手から損害賠償の請求がされる可能性があります。
損害賠償するべき金額は、相手が受けた被害の度合いにもよりますが、相手が死亡や重傷の場合は数千万円以上になることも珍しくありません。
あおり運転が刑事事件として立件されると不安があるときには、なによりも先に被害者の方に謝罪と誠意を示すべきです。
被害者の方が反省の姿勢を理解した際には、示談等のお話ができるかもしれません。示談が成立したときには、その事実が刑事裁判でも考慮され、重い処分の扱いを受けない可能性が高くなります。
4、あおり運転をしてしまったら、弁護士へ相談
もしあなたがあおり運転をしてしまったら、すぐに交通事件や刑事事件の取り扱いに経験と実績をもつ弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士はあなたのあおり運転が立件されたとしても、あなたが有罪となり前科がつくことを防ぐために、主に以下のような弁護活動を行うことができます。
- 警察への自首に同行
- 被害者との示談交渉
- 逮捕された場合に面会し、今後の取り調べに向けたアドバイス
- 警察などの捜査機関と、早期釈放に向けた交渉
先述のとおり、あおり運転の被害者と示談が成立していることは、刑事事件の処分においても、重要なポイントになります。しかし、被害者と示談を行うことは、被害者の心情面などから加害者本人はもちろんのこと、加害者のご家族でも難しいかもしれません。そもそも、捜査機関は加害者に被害者の住所や氏名、連絡先などを積極的に教えることはありません。
しかし、弁護士であれば職権で被害者の連絡先を警察などから得ることができ、早期に被害者と示談交渉を開始することが可能です。そして、被害者の心情を踏まえた示談交渉を行い、その結果があなたの早期釈放につながることが期待できます。
5、まとめ
あおり運転は犯罪行為であり、悲惨な事故から厳罰化されました。もしも、加害者になったときは、今後の対応について、弁護士にご相談することをおすすめします。
あおり運転の加害者になったときは、ぜひベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています