殺人未遂の教唆は、どのような罪に問われるの? 教唆とはどんな行為なのか
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ナイフで人を刺してしまった……殺人罪は、非常に重い刑罰が定められていますので、有罪となれば長期間刑務所に服役しなければならない可能性があります。被害者が死亡しなかった場合には、殺人未遂罪となりますが、それでも重い刑罰が科される可能性があります。
刑法上の犯罪は、単独犯だけでなく共犯の形式でも成立します。他人に犯罪を行うよう唆す行為は、教唆犯として処罰されることになります。人を殺すように教唆した結果、正犯者が犯行に及んだものの被害者が死亡することなく未遂に終わった場合には、教唆犯は処罰されるのでしょうか。
今回は、殺人未遂の教唆がどのような罪に問われるのかについて、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、殺人と殺人未遂の構成要件と刑罰
殺人罪と殺人未遂罪はどのような点で区別されるのでしょうか。以下では、殺人罪と殺人未遂罪の構成要件と刑罰について詳しく説明します。
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(1)殺人罪とは
殺人罪とは、その言葉どおり、人を殺してしまう犯罪のことをいいます(刑法199条)。
殺人罪が成立するためには、殺人の実行行為、被害者の死亡という結果発生、実行行為と結果との因果関係、殺人の故意、という要件を満たす必要があります。
殺人の実行行為とは、人の生命を断絶する現実的危険性のある行為のことをいいます。たとえば、ナイフで首や腹部を刺す行為は、出血多量で死亡する危険のある行為ですので、殺人の実行行為にあたります。また、金属バットで被害者の頭を強く殴打する行為は、脳挫傷などによって命を落とす危険のある行為ですので、これも殺人の実行行為にあたる可能性があります。
では、蕎麦アレルギーのある人に対して蕎麦を与える行為はどうでしょうか。一般的に蕎麦を与える行為自体には、人の生命を断絶する危険性はありませんが、アナフィラキシー(全身性のアレルギー反応)ショックを起こすような体質を有している方に対しては生命を断絶する危険のある行為といえます。そのため、蕎麦アレルギーのあることを知って行為に及んだ場合には、殺人の実行行為といえる場合があるでしょう。
殺人の故意とは、積極的に被害者を殺そうと思っている場合だけでなく、死んでもかまわないといった程度の認識であっても殺人の故意は認められます。
そして、故意の実行行為に及んだ結果、被害者が死亡した場合に殺人罪が成立します。
殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役と規定されています。殺人罪は、減刑がなければ、短くても5年以上の懲役刑になり、場合によっては死刑も規定されている非常に重い罪です。 -
(2)殺人未遂罪とは
殺人未遂罪とは、殺人罪の実行行為に着手したものの被害者が死亡しなかった場合や殺人罪の実行行為に着手して被害者が死亡したものの行為と結果との間に因果関係がなかった場合をいいます(刑法203条)。
前者の例としては、被害者の腹部をナイフで刺したものの、治療の成果によって奇跡的に命が助かった場合が挙げられます。後者の例としては、毒殺目的で毒を飲ませたものの、毒が効き始める前に、無関係な別人に刺殺された場合などが挙げられます。
殺人未遂罪の法定刑も殺人罪と同様に死刑または無期もしくは5年以上の懲役と規定されていますが、外部的事情など客観的事情により未遂にとどまった場合には、裁判官の判断によって刑が減軽できることになっています。また、自己の意思という主観的事情により犯罪を中止したといえるときは、刑が減軽または免除されます。
2、殺人を教唆し、未遂となったら
殺人の教唆をしたところ、正犯者が実行行為に及んだものの被害者が死亡しなかった場合、殺人の教唆をした人はどのような罪に問われるのでしょうか。
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(1)教唆とは
教唆とは、他人を唆して犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。刑法では、人を教唆して犯罪を実行させた場合には、正犯者の刑を科すると規定しており、教唆者も正犯者と同様に処罰されることになります。
もっとも、量刑を考えるにあたっては、正犯か共犯かによって刑の重さは変わってきます。正犯者の刑を科すると規定されてはいますが、一般的には、実際に犯行に及んだ正犯者の方が教唆犯に比べて重く処罰されることになります。
教唆犯の成立に必要な教唆行為とは、他人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせ、それに基づき犯罪を実行させる行為をいいます。教唆行為は、その方法や手段のいかんを問いません。たとえば、他人にお金を渡して人殺しを頼むという方法が教唆行為の代表的な例といえるでしょう。 -
(2)教唆と幇助の違い
教唆犯と同様に共犯として扱われるものとして“幇助犯”というものがあります。幇助とは、実行行為以外の行為によって正犯の実行行為を容易にする行為のことをいいます。幇助の方法には、殺人に必要となるナイフを貸してあげるなどの物理的幇助や、犯罪の手段・方法を教えてあげたりなどの精神的幇助があります。
教唆と精神的幇助は、非常によく似ていますが、教唆は、教唆行為によって初めて正犯者に犯罪を決意させるのに対して、精神的幇助は、すでに犯罪を決意している正犯者に対してその決意を強めるものであるという違いがあります。
幇助犯は犯行を決意している人を助けるのに対し、教唆犯は正犯者に新たに犯行を決意させるという点で、幇助犯よりも重く処罰されることになります。 -
(3)殺人未遂の教唆は成立するのか
正犯者が被害者の腹部をナイフで刺したものの、奇跡的に被害者の命が助かったという場合には、正犯者には、殺人未遂罪が成立します。では、正犯者を唆して、殺人の実行行為をさせた教唆犯にはどのような罪が成立するのでしょうか。
教唆犯が成立するためには、正犯者に犯罪の実行を決意させるだけではなく、正犯者が実際に犯罪の実行行為に着手することが必要になります。したがって、正犯者が途中で翻意して実行行為に着手しなかった場合には、教唆犯は成立しませんが、正犯者が実行行為に着手した場合には、未遂にとどまった場合でも教唆犯が成立することになります。
したがって、上記のケースでは、教唆犯には、殺人未遂罪の教唆が成立することになります。
3、殺人以外の教唆を行った場合の犯罪の成否
殺人以外の教唆を行った場合にも基本的には教唆犯が成立します。もっとも、結果的加重犯の教唆のような、特殊な教唆の場合には、通常とは異なる考慮が必要になる場合があります。
結果的加重犯とは、犯罪行為をした結果、当初の予想よりも重い結果を引き起こしてしまった場合に、その重い結果に対しても罪に問うことをいいます。傷害致死罪などが代表的な例です(刑法205条)。
教唆犯が傷害の教唆をしたところ、正犯者が傷害の実行行為におよび予想外に被害者が死亡してしまった場合には、正犯者には傷害致死罪が成立します。では、教唆犯はどのような罪に問われるのでしょうか。
このようなケースでは、教唆犯には、傷害の教唆ではなく、傷害致死の教唆が成立することになります。なぜなら、傷害行為自体に人の生命を奪う危険が含まれていますので、傷害行為を教唆した場合には、生じる可能性のあった死亡の結果についても責任を負う必要があるからです。
4、殺人にかぎらず、自身の言動で教唆を不安に思ったら弁護士に相談
殺人を唆した場合にかぎらず、何らかの犯罪を唆してしまったという場合にはすぐに弁護士に相談をするようにしましょう。
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(1)犯罪に該当するかどうかの判断ができる
犯罪を直接的に指示したわけではなく、アドバイスしただけのつもりでも、相手方の捉え方によっては教唆犯が成立する可能性があります。自分自身の言動が何らかの犯罪に該当するのではないかと不安になっている方は、早めに弁護士に相談をするとよいでしょう。
弁護士であれば、具体的な状況を聞き取った上で、犯罪に該当する行為かどうかを的確に判断してくれます。犯罪を唆した相手がまだ犯罪の実行に着手していない段階であれば、その人を止めることによって共犯者として処罰されることはなくなります。早めに相談をすることによって、事前に犯罪を食い止めることができる可能性もありますので、心当たりのある方はすぐに相談に弁護士に相談をしましょう。 -
(2)逮捕された場合の弁護活動を依頼できる
正犯者が犯罪に着手してしまった場合には、正犯者を唆した教唆犯も正犯者と同様に逮捕される可能性があります。
逮捕(最長72時間=3日間)・勾留(最長20日間)された場合には、最長で合計23日間も身柄拘束をされる可能性があります。逮捕中は、家族であっても面会をすることができず、面会をすることができるのは弁護士だけです。勾留期間になっても、共犯事件の場合には、お互いの口裏合わせを防止するために、接見禁止がなされることが多く、その場合には、勾留中であっても弁護士以外の人との面会は禁止されます。
外部から遮断された拘束が続くと、精神的に追い詰められて、取り調べでやってもいないことを自白してしまうこともあります。いったん自白した内容を後日取り消すことは難しくなりますし、裁判でも不利な証拠として扱われることになります。
そのため、身柄拘束中に弁護士と面会をし、具体的なアドバイスをもらうことが非常に重要となります。
5、まとめ
誰かに人を殺すように唆した場合には、被害者が死亡しなかったとしても、殺人未遂罪の教唆として処罰される可能性があります。教唆犯の法定刑は、正犯者と同様ですので、教唆犯だからといって軽い法定刑が適用されるわけではありません。
犯罪を唆してしまったかもしれないと不安を感じているという方は、早めにベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでご相談ください。
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