自分に過失がある労災事故で、会社を訴えることは可能?
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東京労働局が公表している労災発生状況に関する統計資料によると、令和3年に立川市を管轄する立川労働基準監督署管内で発生した労災事故の件数は、1001件でした。
労災によって病気や怪我を負ってしまった場合には、労災保険から補償を受けることができます。しかし、労災の発生に関して労働者側にも過失(不注意によるミス)があるという場合もあります。このような場合にも補償を受けることはできるのでしょうか。また、会社に対して、損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
今回は、労災事故の発生に関し自分に過失がある場合の補償および損害賠償請求について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、労災保険は過失があっても受け取れる
業務中や通勤中の出来事によって傷病を負った場合には、たとえ自分に過失があっても、労働基準監督署の労災認定を受けることで補償が受けられます。
労災保険には、労災によって被害を受けた労働者を保護するという目的があるので、自分に過失があったかどうかにかかわらず、労災保険から補償を受け取ることができます。
たとえば交通事故のような損害賠償では、被害者に過失がある場合には、被害者の過失に相当する割合だけ、加害者の負担する賠償額が軽減されることがあります。
しかし、労災保険は、会社に対する請求ではないため、過失相殺の考え方は適用されません。ですから、労災認定を受けることができれば、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付といった各種補償について、満額の支払いを受けることができます。
2、自分に過失があっても、会社を訴えることはできる
自分に過失がある場合に、労災保険の補償に加えて、会社に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。
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(1)労災保険給付の不足を補うための会社に対する損害賠償請求
労災認定を受けることによって、労災保険から以下のような補償が支払われます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料、葬祭給付
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
このような補償内容をみると、「これだけ補償が受けられたら十分だ」と感じる方もいるかもしれません。しかし、実際は、これらの補償だけでは決して十分とはいえません。
なぜなら、労災保険からは、精神的苦痛に対する慰謝料は一切支払われません。また、後遺障害が残った場合に支払われる障害(補償)給付は、将来の減収分のすべてをカバーするものではありません。
このように、労災保険では、被災労働者が被った損害のすべてをカバーすることはできません。ですから、不足する部分については、会社に対して損害賠償を請求する必要があります。 -
(2)過失があっても損害賠償請求は可能だが減額される可能性がある
会社に対して損害賠償請求をする場合には、労災の発生について、会社に責任があることが必要です。では、どのような場合に会社の責任は認められるのでしょうか。
会社は、労働者に対して、労働契約上の義務として、安全な労働環境を提供しなければならないという「安全配慮義務」を負っています。そのため、労災の原因が「会社の危機管理不足である」場合には、会社に「安全配慮義務」違反が認められ、会社に責任が生じます。
しかし、損害の発生について、労働者側にも過失がある場合には、過失相殺によって、会社に対して請求できる金額が減額される可能性があります。
たとえば、以下のようなケースでは、労働者側にも過失が認められ、過失相殺によって会社に対して請求できる金額が減額される可能性があります。- 労働者の独断で命綱を付けずに高所作業を行ったため、地面に落下し、負傷したケース
- 労働者の不注意によって、機械の使用方法を守らなかったため、機械に巻き込まれて負傷したケース
3、労災隠しをされた場合の対処法
労災事故があったにもかかわらず、会社が労災申請をしてくれないことがあります。なぜ会社は労災申請を拒むのでしょうか。また、そのような場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。
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(1)会社が労災隠しをする理由
事業主は、労災によって労働者が死亡または休業した場合は、遅滞なく、労働基準監督署に労働者死傷病報告などを提出しなければなりません。
それにもかかわらず、故意に労働者死傷病報告を提出しないことまたは虚偽の内容を記載して提出することを「労災隠し」といいます。労災隠しがあった場合には、50万円以下の罰金に処せられます(労働安全衛生法120条、122条)。
このように、労災隠しは犯罪であるにもかかわらず、それを行う会社が存在します。その理由としては、以下のようなものが考えられます。① 労災保険料が上がる
労災保険の保険料や保険料率は事業場での労災の発生状況や件数に応じて、決定されます。労災発生が多くなれば企業が負担する労災保険料も高額になりますので、それを避けるために労災隠しが行われます。
② 企業のイメージが低下する
労災が発生したということが世間に明らかになってしまうと、労働環境がよくないというイメージを持たれてしまい、取引先から取引の継続を断られてしまったり、入社希望者が減少したりするというデメリットが生じる可能性があります。
③ 手続きが面倒
労災申請の手続きに不慣れな企業では、労災申請に要する手間を嫌い、労災申請手続きが面倒だからという理由で、労災隠しを行うこともあります。 -
(2)労災隠しの対処法
自分に過失があるからという理由で会社が労災申請をしない場合には、労働者本人が申請することも可能です。労災申請の際に必要となる事業主証明が得られなかったとしても、労災申請を受け付けてもらうことができる場合もありますので、まずは、労働基準監督署に相談をしてみるとよいでしょう。
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(3)労災で健康保険は利用しない
会社が労災申請をしてくれないからといって、病院での治療の際に健康保険を利用してはいけません。健康保険は業務外での傷病等を対象にするものですので、業務中または通勤中の傷病の場合には適用されません。
仮に労災の傷病で健康保険を使ってしまった場合には、後日、自己負担分以外の医療費を請求されるリスクがあります。会社から健康保険の利用を促されたとしても、それには応じないようにしましょう。
4、労災について会社を訴える場合は弁護士に相談を
労災について会社を訴える場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)会社の責任の有無を判断してもらえる
労働基準監督署から労災認定を受けたとしても、それだけで、会社から損害賠償を受けられるわけではありません。損害賠償を受けるには、安全配慮義務違反など会社の責任が認められる必要があるからです。
会社に安全配慮義務違反があったかどうかについては、契約内容や労働環境、労働者への指示体制などを踏まえて、個別具体的に判断しなければなりません。適切に判断をするためには、専門的知識と経験が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談をしましょう。 -
(2)過失割合を適切に判断してもらえる
自分に過失がある場合でも損害賠償請求は可能ですが、過失割合に応じて会社に対して請求できる金額が減額される可能性があります。
損害額が高額になる場合には、過失割合が10%変わるだけでも請求金額が数百万円変わることもあります。ですから、適正な過失割合で損害額を計算することが重要です。
弁護士であれば、過去の裁判例や労災の具体的な発生状況を踏まえて、適正な過失割合を判断することができます。自分のケースで過失割合がどの程度かわからない、会社から過失割合を提示されたが、妥当であるかがわからないという場合には、弁護士に相談をするとよいでしょう。 -
(3)会社との交渉や裁判を任せることができる
会社に対して損害賠償請求をする場合、まずは会社との話し合いによって解決を図るのが基本です。しかし、自分に過失があるような事案では、労災の責任の所在だけでなく、過失割合でも争いになり、話し合いでは解決することができない場合もあります。そのような場合には、最終的に訴訟により解決を図ることになりますが、訴訟手続きには専門的な知識や経験が不可欠です。
弁護士であれば、被災労働者に代わって会社との交渉や訴訟を行うことができますので、安心して任せることができるでしょう。
5、まとめ
労災保険は、労働者保護を目的とした制度ですので、労働者に過失があったとしても、労災保険給付を受けることができます。また、会社に対する損害賠償請求も、労働者の過失にかかわらず行うことができますが、労災保険とは異なり、過失割合に応じて過失相殺される可能性があります。
労災に関する請求について、金銭的に不利益な解決を避けるためには、弁護士のサポートが不可欠となりますので、まずは、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています