労災治療時に薬局へ払ったお金を返金してもらうための手続き方法

2023年03月30日
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労災治療時に薬局へ払ったお金を返金してもらうための手続き方法

2021年に東京都内で発生した労働災害による、休業4日以上の死傷者は1万2876人でした。労災認定を受けた方の中には、薬や治療薬を購入した人も多いでしょう。

労災(労働災害)によるケガや病気の治療薬を、労災保険指定薬局以外の薬局で購入する際には、費用全額を自分で立て替えなければなりません。健康保険は適用できないので注意が必要です。

立て替えた薬剤の購入費用は、後で労働基準監督署に対して請求することができます。また、医療費・薬剤費のほかにも、さまざまな労災保険給付を受給できますので、該当する給付を漏れなく請求できるよう、事前に知識を身に着けておきましょう。

今回は、労災によるケガや病気の治療薬を購入する際の費用の取り扱いなどを、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和3年の東京都内の労働災害の発生状況を公表します」(東京労働局)

1、労災で通院する場合、医療機関・薬局での支払いはどうなる?

業務上の原因により、または通勤中に発生したケガや病気などは労災に該当します(労働者災害補償保険法7条1項1号、3号)。

労災に当たるケガや病気の治療のために通院する場合、受診先の医療機関・薬局の種類によって、費用精算の取り扱いが異なります。

  1. (1)労災病院・労災保険指定医療機関(薬局)の場合|支払いは不要

    労災病院または労災保険指定医療機関を受診する場合、労災保険によって無償で医療が提供されるため(療養補償給付)、窓口での支払いは必要ありません。
    参考:「労災保険指定医療機関検索」(厚生労働省)

    また、労災保険指定薬局から薬剤を購入した場合も、同様に窓口での支払いは不要です。

  2. (2)それ以外の医療機関・薬局の場合|全額立て替える必要がある

    労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関を受診した場合は、いったん医療費全額を支払う必要があります。健康保険は適用できないので、立替の医療費は、3割負担ではなく10割負担となります。

    労災保険指定薬局以外の薬局で薬剤を購入した場合も、同様に購入費全額を支払う必要があります。

    医療機関・薬局に支払った医療費・薬剤費は、後日労働基準監督署に「療養の費用」として請求をすれば、全額還付を受けられます

2、誤って健康保険を適用した場合の切り替え手続き

労災によるケガや病気については、健康保険を適用することはできません(健康保険法55条)。もし、労災給付を受けられるにもかかわらず、健康保険の適用を受けた場合、以下の手続きによって労災保険への切り替えを行いましょう。

  • ① 受診した医療機関(薬局)に連絡する
  • ② 健康保険組合に医療費(薬剤費)を返納する
  • ③ 労働基準監督署に「療養の費用」を請求する

  1. (1)受診した医療機関(薬局)に連絡する

    まずは、健康保険の適用を受けて費用を支払った医療機関・薬局に連絡をとり、ケガや病気が労災によるものであったことを伝え、労災保険への切り替えができるかどうかを確認しましょう。
    労災病院・労災保険指定医療機関・労災保険指定薬局であれば、労災保険への切り替え対応を行ってもらえることがあります。

    切り替え可能との回答を得た場合には、以下の書類を作成して医療機関・薬局に提出しましょう。

    • 業務災害:様式第5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」
    • 通勤災害:様式第16号の3「療養給付たる療養の給付請求書」


    労災保険への切り替えが完了しましたら、窓口で支払った費用は返金されます。具体的な返金手続きについては、医療機関や薬局にご確認ください。

  2. (2)健康保険組合等に医療費(薬剤費)を返納する

    労災保険への切り替えについて対応してもらえない場合は、健康保険によって賄われた医療費・薬剤費を保険者に返納する必要があります。保険者である健康保険組合等に連絡をとり、指示に従って返納手続きを行いましょう。

    なお、後日労働基準監督署へ療養の費用を請求する際には、健康保険組合等から送付されるレセプト(診療報酬明細書)が必要となりますので、大切に保管してください。

  3. (3)労働基準監督署に「療養の費用」を請求する

    健康保険組合等への返納手続きが完了したら、労働基準監督署に対して以下の請求書を提出し、療養の費用を請求しましょう。

    業務災害
    • 様式第7号(1)「療養補償給付たる療養の費用請求書」(医療機関の場合)
    • 様式第7号(2)「療養補償給付たる療養の費用請求書(マル薬)」(薬局の場合)

    通勤災害
    • 様式第16号の5(1)「療養給付たる療養の費用請求書」(医療機関の場合)
    • 様式第16号の5(2)「療養給付たる療養の費用請求書(マル薬)」(薬局の場合)


    さらに、以下の添付書類が必要となります。

    • 健康保険を適用した際の窓口負担額の領収書(原本)
    • 健康保険組合等への返納金の領収書(原本)
    • 健康保険組合等から送付されたレセプト(未開封の状態で添付)

3、医療費以外にも受給できる労災保険給付の種類

医療費(=療養(補償)給付)のほかにも、労災によるケガや病気について、被災労働者(またはその遺族)は以下の労災保険給付を請求できます。該当する給付を漏れなく請求しましょう。

  • ① 休業(補償)給付
  • ② 障害(補償)給付
  • ③ 遺族(補償)給付
  • ④ 葬祭料・葬祭給付
  • ⑤ 傷病(補償)給付
  • ⑥ 介護(補償)給付

  1. (1)休業(補償)給付

    「休業(補償)給付」は、労災によるケガや病気を治療するため、仕事を休んだ期間の収入を補填する労災保険給付です。

    休業4日目以降、1日当たり平均賃金(給付基礎日額)の80%が補填されます(労働者災害補償法14条1項、特別支給金支給規則3条1項)。
    参考:「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(厚生労働省)

  2. (2)障害(補償)給付

    「障害(補償)給付」は、労災によるケガや病気が完治しなかった場合に、後遺症の部位や程度などに応じて逸失利益を補填する労災保険給付です(労働者災害補償法12条の8の1項3号)。
    給付額は、直近の賃金額と労働基準監督署によって認定される障害等級に応じて決まります。

    (参考:「障害等級表」(厚生労働省))
    (参考:「障害(補償)等給付の請求手続」(厚生労働省))

  3. (3)遺族(補償)給付

    「遺族(補償)給付」は、労災によって亡くなった被災労働者の遺族に対して、生活保障の目的で行われる労災保険給付です(労働者災害補償法12条の8の1項4号)。
    給付額は、直近の賃金額と遺族の数に応じて決まります。
    参考:「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」(厚生労働省)

  4. (4)葬祭料・葬祭給付

    「葬祭料・葬祭給付」は、労災によって亡くなった被災労働者の葬儀費用を補填する労災保険給付です(労働者災害補償法12条の8の5号)。以下のいずれか高い金額が給付されます。

    • ① 31万5000円に平均賃金(給付基礎日額)の30日分を加えた額
    • ② 平均賃金(給付基礎日額)の60日分

    (参考:「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」(厚生労働省))

  5. (5)傷病(補償)給付

    「傷病(補償)給付」は、障害等級第3級以上に該当するケガや病気が、1年6か月以上治らない場合に行われる労災保険給付です(労働者災害補償法12条の8の1項6号)。労働基準監督署長の職権によって支給が開始されます。
    (参考:「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(厚生労働省))

  6. (6)介護(補償)給付

    「介護(補償)給付」は、障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者が、第1級または第2級の精神・神経障害または胸腹部臓器の障害を有し、現に介護を受けている場合に支給されます(労働者災害補償法12条の8の1項7号)。
    常時介護か随時介護かによって、給付(上限)額が変わります。
    (参考:「介護(補償)等給付の請求手続」(厚生労働省))

4、労災について弁護士に相談すべきケース

業務上の原因による労災(業務災害)については、労災保険給付を請求できるだけでなく、会社に対して損害賠償を請求できる場合があります

会社に対する損害賠償請求の根拠となるのは、「使用者責任」と「安全配慮義務違反」の2つです。

(a)使用者責任
他の従業員の故意・過失によって被災した場合、会社に対して使用者責任に基づく損害賠償を請求できます(民法第715条第1項)。

(b)安全配慮義務違反
会社は、従業員が安全を確保しつつ労働できるように配慮する義務を負っています(労働契約法第5条)。会社の安全配慮義務違反に起因して被災した場合、会社に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できます(民法第415条第1項)。


労災保険給付は、被災労働者が受けた損害全額を補填するものではありません。労災保険給付が実損害に不足する場合には、会社に対する損害賠償請求をご検討ください

会社に損害賠償を請求する際には、弁護士への相談をおすすめします。実績豊富な弁護士が、確固たる法的根拠に基づいて請求を行うことにより、適正額の損害賠償を獲得できる可能性が高まります。

5、まとめ

労災によるケガや病気の治療には、健康保険を適用することができません。もし誤って健康保険の適用を受けた場合には、労災保険への切り替え手続きを行いましょう。

業務上の原因によりケガをし、または病気にかかった場合には、労災保険給付の請求に加えて、会社に対する損害賠償請求もご検討ください。

ベリーベスト法律事務所は、被災労働者が受けた損害を可能な限り回復するため、会社に対する損害賠償請求を親身になってサポートいたします。

労災によるケガや病気につき、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。

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