胎児認知とは? 妊娠中に手続きを進める方法と拒否されたときの対応

2024年04月30日
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胎児認知とは? 妊娠中に手続きを進める方法と拒否されたときの対応

立川市が公表する「人口・世帯等の戸籍届出処理件数・住民異動届処理件数」によると、令和3年度の出生数は1159人でした。統計上では両親の婚姻状況は不明ですが、未婚の母親は一定数いるものと予想されます。

婚姻している男女から生まれた子どもについては、法律上当然に親子関係が生じます。他方、婚姻していない男女から生まれた子どもについては、父親との間に法律上の親子関係は当然には生じません。法律上の親子関係を生じさせるためには、「認知」という手続きが必要です。この認知の手続きについては妊娠中、つまり、子どもが胎児の状態であってもすることができます。

本コラムでは、妊娠中でも認知の手続きを行える「胎児認知」の基礎知識から、手続き方法、認知してもらえないときの対応法から養育費の請求方法など、生まれてくる子供のためにできることについてベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。

1、胎児認知とは

胎児認知とはどのような手続きのことをいうのでしょうか。以下では、認知についての基本的事項と胎児認知について説明します。

  1. (1)親子関係の決定方法

    法律上、親子関係は、「母子関係」と「父子関係」に分けられて規定されています。まず母子関係が決定され、その後父子関係が決定される構造となっています。

    母子関係は、懐胎や分娩の事実によって決定されます(最判昭和37年4月27日民集16巻7号1247頁、最決平成19年3月23日民集61巻2号619頁 参照)。

    父子関係は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定」(民法772条1項)され、婚姻を媒介に決定されます。妊娠後に離婚したとしても、離婚した日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます。しかし、「婚姻関係にない妻が懐胎した子」の場合には、父子関係は当然には成立しません。

    ただし、民法(親子法制)などの改正により、施行日である令和6年4月1日以降は、たとえ離婚した日から300日以内に生まれた子どもであっても、母親が前夫と異なる男性と再婚したあとに生まれた子どもは再婚後の夫の子どもと推定する例外が設けられています。

  2. (2)認知とは

    認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもについて、法律上の親子関係を生じさせる手続きのことをいいます。婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことを「非嫡出子」といいます。父親は認知という手続きをすることで、非嫡出子との間に父子関係を生じさせることができます。

    認知によって法律上の親子関係が生じることになります。そのため、法律上親子であることによって認められる権利・義務関係が父親との関係で生じます。未成熟子に対する扶養義務(民法877条1項)や、子どもの相続権(民法877条1項)などです。

  3. (3)胎児認知とは

    胎児認知とは、子どもが生まれる前の胎児の段階で認知をすることをいいます

    子どもが生まれてから認知を行うのが一般的ですが、父親が病気などによって子どもが生まれる前に亡くなってしまう可能性があるケースで親子関係を明らかにする手段として利用されています。

    そのほかにも、未婚の外国人女性がまれた子どもに日本国籍を取得させるための手段としても利用されています。外国人女性が出産する場合、日本国籍の男性と婚姻をしていないと、生まれた子どもは外国人として出生届を提出するしかありません。しかし、胎児認知をしていれば、出生と同時に日本国籍の男性との間に法律上の親子関係が認められ、日本人として出生届を提出することが可能になります(国籍法2条)。

    なお、胎児認知をするためには、母親が承諾することが条件となっています。

2、胎児認知のメリット・デメリット

胎児認知には、出生後の認知と比較して、以下のようなメリットとデメリットがあります

  1. (1)胎児認知のメリット

    胎児認知のメリットとしては、以下のものが挙げられます。

    ① 未婚の外国人女性と日本人男性との間の子どもが、日本国籍を取得できる
    上記で述べましたように、胎児認知をすることにより、子どもは日本国籍を取得できます。

    ② 父親の相続権が認められる
    父親と母親が婚姻関係になかった場合に、子どもが生まれる前に父親が亡くなってしまうと、子どもは父親の相続人となりません。母親も婚姻関係にない以上、父親の相続人とはなりません。認知を受けることで、子どもは父親の相続人になることはできます。特に、胎児認知を受けておくことによって、仮に子どもが生まれる前に父親が亡くなってしまったとしても、胎児は相続人となることができますので(民法886条1項、同3条1項)、子どもは父親の遺産を相続することができます。

    ③ 出生届に父親の名前を書ける
    胎児認知を行うことによって、子どもが生まれたあとは、出生届に認知をした父親の名前を書くことができるというメリットがあります。出生後の認知であっても胎児認知であっても、子どもの戸籍に父親の名前が記載されますが、出生届に父親の名前を書くことができるのは、胎児認知をしたときだけに限られます

    法的なメリットというわけではありませんが、きちんと出生届に父親の名前を書けたということで、親の気持ちの部分において満足感を得られます。

  2. (2)胎児認知のデメリット

    胎児認知のデメリットとしては、認知の前に父親の子どもであることの確認が困難であるということです

    一度行った認知(胎児認知の方法に限りません)の取消しは制限されています(民法785条)。また、認知の効力を争うためには、「認知無効の訴え」を提起する必要があります(民法786条)。裁判手続きを行うためには、時間も費用もかかりますので、大変な負担となります。

    出生後の認知であれば、DNA鑑定をするなどして、認知をする父親が、子どもの本当の父親であるかどうかを確かめることができます。しかし、胎児認知ではそのような手段で確かめることができません。

3、不倫と胎児認知

未婚女性が、既婚男性との間の子どもを妊娠した場合、その女性はその男性に胎児認知を求めることができるのでしょうか。また、既婚女性が、不倫相手の男性との間の子どもを妊娠した場合には、その女性は不倫相手に胎児認知を求めることができるのでしょうか。

  1. (1)未婚女性が既婚者の男性との間の子どもを妊娠した場合

    既婚者である男性に胎児認知を求めることができます

    ただし、この場合に相手の男性が子どもを認知するということは、女性とその男性との間に肉体関係があったことを認めることになります。そのため、その男性の配偶者から、不貞行為を理由とした慰謝料請求をされる可能性があります。

  2. (2)既婚女性が不倫相手の男性との間の子どもを妊娠した場合

    母親が不倫相手の男性とは別の男性と婚姻しているときには、不倫相手の男性に胎児認知を求めることはできません。「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定」されるからです(民法772条1項)。そのため、女性が婚姻中に産んだ子どもは、法律上は、不倫相手の男性の子どもではなく、婚姻関係にある男性の子どもとして扱われることになります

    婚姻関係にある男性としては、DNA鑑定などによって自分の子どもでないことが明らかになったのであれば、当然に親子関係が否定されると考えるかもしれません。しかし、法律上の親子関係を否定するためには、原則として「嫡出否認の訴え」(民法774条、人訴法2条2号)を提起する必要があります。そして、嫡出否認をするためには、「夫が子の出生を知った時から3年以内に提起しなければならない」(民法777条)とされています。

    この期間を経過すると、嫡出否認の訴えによって、法律上の親子関係を否定することができなくなりますので注意が必要です。

4、胎児認知の手続き方法

  1. (1)胎児認知の手続き

    市区町村役場に子どもの父親が認知届を提出することで、胎児認知を行うことができます。

    胎児認知をする場合には、出生後の認知の場合と異なり、母親の本籍地のある市区町村役場に認知届を提出して行う必要があります(戸籍法61条)。胎児認知の場合には、母親の承諾が要件とされていますので、認知届に母親が承諾をした旨の署名捺印や、あるいは母親の承諾を証する書面の添付が必要になります(戸籍法38条1項)。認知届の「認知される子」の欄については、まだ子どもが出生していませんので、氏名を「胎児」と記入し、性別や生年月日などは空欄にしておきましょう。

    その他、届け出に必要なものとしては、父親の戸籍謄本、父親の印鑑、父親の本人確認用書類などがあります。

  2. (2)父親が胎児認知に協力しないとき

    胎児の父親が任意に認知をしてくれないときには、母親は、父親に対して、任意に胎児を認知することを求める調停を申し立てることができます。しかし、胎児認知については、審判や裁判認知という強制力のある手段は認められていません。

    胎児認知調停が成立したときには、父親が認知届を市区町村役場に提出することによって胎児認知が成立します。

    なお、出生後の認知であれば、「認知調停」や「認知の訴え」をすることができます。認知調停では、当事者が認知に合意をし、裁判所がその合意に相当性があると判断したときには、合意に相当する審判を受けることができます(家事事件手続法277条1項)。

5、まとめ

未婚の女性が子どもを妊娠することは、出産に対する不安だけでなく、生まれた子どもの将来についても不安を抱いていることでしょう。法律上は、認知という手続きをとることによって、婚姻関係にある男女から生まれた子どもと同等の保障が受けられることになります。

認知を求めるにあたっては、まずは任意認知をしてもらうために話し合いをすることになりますが、未婚の男女の間では、認知をめぐってトラブルになることが多くあります。交際相手に認知を求めたが断られてしまった、交際相手と連絡をしようとしたが連絡が取れないなど子どもの認知のことでお悩みの方は弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談をすることによって、子どもの認知についての交渉から裁判まで複雑な手続きをすべて任せることができます。さらに、認知を受けた子どもの養育費請求についても併せて依頼することも可能です。

認知や養育費だけでなく、非嫡出子の相続の問題についてもベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています