【後編】弁護士が解説! 雇用契約書の内容変更の際必要な覚書の書き方
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前編では、雇用契約書についての基礎的な知識や、労働条件などを変更する際に作成すべき覚書などについて解説しました。労働基準法は法律であり、立川市内や多摩地区に限らず、日本国内で労働者を雇う企業はすべて順守する必要があることを覚えておきましょう。
後半では、雇用条件を変更する際に抑えておくべき事項と手順について、立川オフィスの弁護士が解説します。
4、雇用条件を変更する前に押さえておくべき事項と手順とは?
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(1)雇用契約の変更における原則とは?
労働契約法では、雇用契約の締結および変更について以下のように原則を定めています。
- 会社と労働者は対等の立場であること。
- 就業の実態に応じた均衡を考慮すること。
- 会社は、労働者の仕事と生活の調和に配慮すること。
- 会社と労働者は信義に従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはならないこと。
この原則の目的は、会社に比べて弱い立場にある労働者の保護であることはいうまでもありません。
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(2)労働者からの合意を得る
雇用契約の内容となっている労働条件は、すでに会社と労働者との間で合意に基づき成立したものですから、これを会社が一方的に変更することはできません。労働契約法第8条にも、雇用契約の変更は会社と労働者が合意することが確認されています。
使用者側としては、労働者からの合意を得るために、雇用契約書を変更する理由や背景を丁寧に説明しましょう。なお、雇用契約の変更に労働者の合意を得られた場合でも、就業規則に定める労働条件よりも下回るような雇用契約の変更は、原則として認められていません。 -
(3)雇用契約変更の覚書に記載しておくべき事項とは?
労働基準法施行規則第5条では、雇用契約締結時に、労働者に明示すべき最低限の労働条件について以下のように定めています。
- 労働契約の期間(ない場合は「期間の定めなし」と記載)
- 就業する場所、および従事する業務の内容
- 業時刻および終業時刻、所定労働時間を超える労働(つまり残業)の有無、休憩時間、休日と休暇、2組以上の交代制で就業する場合の事項
- 退職手当および臨時賃金以外の賃金の決定、計算および支払い方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する時効
- 退職に関する事項(解雇の事由や定年の年齢など)
上記の事項については、雇用契約書の本文または別紙に明記してあることが一般的です。したがって、少なくとも、上記の事項について変更が生じた場合は、雇用契約変更の覚書にその旨を明記しておくべきでしょう。
ただし、労働基準法施行規則第5条に定められていない事項でなくても、たとえば労働者の食事負担や賞与などについて雇用契約書に明記しており、それについて変更が生じた場合は、その変更内容についても覚書に明記しておくことが後の紛争を予防するためには必要な措置といえるでしょう。
そして、双方の合意が整ったときには、元の契約書と同様に2部作成し、それぞれが記名押印して1部ずつ保管します。 -
(4)雇用契約変更の覚書に記載しておくべき事項とは?
雇用契約の変更内容が労働者にとって不利な場合、いくら背景を説明し理解を得ようとしても、労働者からの合意が得られず雇用契約変更の覚書を調印できない場合があります。
そのような場合にも、後述のように、就業規則の変更等で対応ができないわけではありません。しかしながら、労働者の理解が得られず、争いになった場合には、訴訟に発展する可能性もあります。裁判などで就業規則の変更が合理的はでないと判断された場合は、その変更が無効になるばかりか、当該変更により不利益を被った労働者から原状回復や損害賠償を請求される可能性もあります。
労働者の理解が得られない場合でも、雇用契約の変更が必要である場合、対処の方法として就業規則を変更することで労働条件の変更を行い、実質的に雇用契約の内容を変更することが考えられます。ただし、労働者の不利益な方向へ労働条件を変更することは、労働契約法第9条の規定により、原則としてできません。
ただし、同法は、同法第10条は、一定の合理的な事情があるとき、会社が労働者にとって不利な労働条件となるような就業規則の変更を行うことを認めています。
具体的には、変更のためには次の2点が必要です。- 変更後の就業規則を労働者に周知させること。
- 労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況などを総合的に考慮しても、就業規則の変更が合理的なものであること。
ここでいう「合理的」とは、たとえば会社が賃金や退職金を減額するような就業規則の変更を行う場合は、「経営環境の悪化により現行の処遇維持が不可能である」「整理解雇を避けるためには賃金や退職金の減額が必要」など、会社に就業規則を変更せざるを得ない背景や事情があるということ考えられます。
なお、労働基準法第92条1項においては、就業規則は労働基準法などの各種法令や労働協約に反するものであってはならないと規定されています。
仮に、労働協約には反していても、変更後の就業規則の内容が各種法令の要件を満たしている場合には、労働協約の有効期間満了後や労使協約の解約後に就業規則を変更する方法が考えられます。
5、まとめ
雇用契約の変更は会社にとって労働者とのトラブルを含めたリーガルリスクを伴うことになります。
労働者より合意が得られないときや、一方的に変更をしたような場合には、使用者と労働者の間での大きな紛争に発展しかねません。
労働条件の必要があったり、申出を受けたりしたときに、紛争に発展して予想外の損害が生じるリスクを減らすため、弁護士に相談するのがよいでしょう。
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もちろん、雇用契約などの労働問題に限らず、幅広い範囲で対応可能です。雇用契約書の変更についてお悩みになったときは、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。
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