勤務間インターバル制度とは? その仕組みや助成金などを弁護士が解説

2021年05月27日
  • 労働問題
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勤務間インターバル制度とは? その仕組みや助成金などを弁護士が解説

厚生労働省東京労働局による「令和元年度における過労死等の労災補償状況(東京労働局分)について」によると、令和元年度中の過労死など(脳・心臓疾患および精神障害事案)を理由とする労災請求件数は、523件(脳・心臓疾患160件、精神障害事案363件)、労災支給決定件数は104件(脳・心臓疾患20件、精神障害事案84件)でした。過労死には、労働環境に応じてさまざま原因があると思いますが、長時間労働が大きな要因であることは否定できません。

このような長時間労働を是正する手段として有効なものが、「勤務間インターバル」という制度です。諸外国では広く浸透している制度ですが、日本ではまだまだなじみがありません。

今回は、勤務間インターバル制度とは何か、その仕組みや助成金などをベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。

1、勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度とはどのような内容なのでしょうか?以下では勤務間インターバル制度の概要と具体的な導入例について説明します。

  1. (1)勤務間インターバル制度の概要

    「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務が終了した後から翌日の出勤までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保し、長時間労働を抑制することを目的とした制度です。勤務間インターバルの制度を導入することによって、労働者の生活時間や睡眠時間を確保することができ、これによって労働者の健康維持や過重労働を防止することにつながります。

    平成31年4月1日から施行された労働時間等設定改善法では、一定のインターバル時間を確保することが事業主の努力義務として規定されています。あくまでも努力義務ですので、インターバル時間の導入を強制するものではありませんし、導入しなかったとしても罰則はありません。

    しかし、勤務間インターバル制度を採用し、労働者に十分な休息を取らせることで、労働者の労務効率化や意欲向上が期待できます。労働者の作業効率や意欲が向上すれば、使用者に経済的利益をもたらします。また、時勢は「働き方改革」などにみられる、労働者のQOLを重んじる風潮にあります。勤務間インターバル制度を導入し、労働者の働き方を改善することは、時勢を意識できていることおよび優良企業であることの外部へのアピールにもなります。

    さらに、労働者にハードワークを強いることは、使用者に短期かつ少額の利益しかもたらしません。労働者に十分な休息を与え、労働者の健康保持やライフワークバランスを意識した就労制度を設けることで、労働者の業務の質やスピードが上がり、使用者は長期的かつ大きな利益を得られることになるのです

  2. (2)勤務間インターバル制度の導入例

    では、勤務間インターバル制度を導入した後、労働者の働き方はどうなるのでしょうか。
    たとえば、始業時間が午前8時で、終業時間が午後5時、インターバル時間が11時間と設定されている企業があったとします。ある日労働者が残業をして午後10時まで働いていたとすると、翌日の始業時間は、前日午後10時の11時間後、すなわち午前9時以降としなければなりません。

  3. (3)勤務間インターバル制度を導入した場合の賃金

    勤務間インターバル制度を導入しようと考えている使用者の方々にとって、一番気になるポイントは、「賃金がどうなるか」でしょう。勤務間インターバル制度の導入によって、始業時間がスライドした場合の賃金の取り扱いとしては、以下の3つの方法があります

    1. ① 翌日午前8時から9時までの1時間分の賃金を支払い、終業時間は午後5時とする
    2. ② 翌日午前8時から午前9時までの賃金はカットし、終業時間は午後5時とする
    3. ③ 翌日午前8時から9時までの1時間分の賃金を支払い、終業時間は午後6時とする


    まず一見すると、③の方法、すなわち1時間分の賃金を支払う代わりに、労働時間を1時間増やす、という方法が労使ともに納得しやすいとも思えます。
    しかし、③を適用し、インターバルを設けるために、どんどん勤務時間がずれていってしまい、就業時間をスライドさせているうちに、労働者の終業時間が深夜になってしまう事態となっては本末転倒です。

    次に、②では、賃金がカットされてしまうわけですから、労働者にとっては不利益です。賃金が減ることになると、労働者が勤務間インターバル制度の導入に反対してしまいます。労働者のための制度の導入を労働者が拒む結果になってしまうと、これも本末転倒です。

    最後に①は、労働者にとっては、ある意味、出勤していない時間分の賃金をもらえるのですから、もっとも喜ばしい方法と言えます。しかし、①では使用者が労働者に多くの賃金を支払い続けることとなり、使用者にとって勤務間インターバル制度の採用が経済的負担となってしまいます。

    そこで、政府は、以下に記述するような助成金の制度を設けました。

2、勤務間インターバル制度は助成金の対象である

勤務間インターバルを導入している企業に対しては、国から助成金「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」が支給されます

申し込みの要件や、申込書式は、厚生労働省HPから確認できます。

ただし、令和2年度の助成金については、令和2年10月15日で終了となっています。令和3年度において助成金の申請は、令和3年度の申請手続きが開始してから申し込む必要があります。

基本的には、以降の年度も従来の申請要件を踏襲すると思われますので、令和2年度の助成金の申請要件を確認し、自社が当てはまるか確認しておくとよいでしょう。

3、勤務間インターバル制度の導入方法

勤務間インターバルの制度導入にあたっては、制度の設計と規定の整備を行わなければなりません。以下では、制度の設計と規定の整備のポイントについて説明します。

  1. (1)必要な手続き

    勤務間インターバル制度の導入は、労働条件の変更といえますから、労使間の合意または就業規則の変更が必要になります

    勤務間インターバル制度の導入により、労働者に十分なインターバルが与えられ、かつ、スライドした勤務時間分の賃金が十分に与えられる、という、完全に労働者に有利な方法であれば、労使間の合意なく就業規則を変更できる可能性が高いです(労働契約法8条、9条本文)。

    しかし、労働者の賃金をカットする方法や、労働時間を延長する方法であれば、インターバルが与えられるとはいえ、労働者にとって不利益ともいえます。労使間の合意なく、労働者にとり不利益な就業規則の変更をした場合、変更が違法と判断されることがあります(労働契約法9条本文、10条本文参照)。

    就業規則の不利益変更が適法であるか、違法であるかの判断は、専門的な知識を要します。また、労使間の合意についても、労働者が真に同意しているといえるか、具体的には労使間の話し合いが十分行われたかなどについては、法的な判断が必要になります。そのため、制度導入にあたって就業規則を変更する場合や、労使間の合意をする場合、弁護士に相談した方が良いでしょう

  2. (2)制度の設計

    ①必要なステップ
    勤務間インターバル制度導入に必要なステップは、

    【1】制度導入の検討
      ↓
    【2】社内役員での就業規則変更検討、または、労使間の協議
      ↓
    【3】労働者の勤務時間の実態把握
      ↓
    【4】実態を踏まえた制度設計の試行および検証→弁護士や社労士への相談
      ↓
    【5】本格的な制度として始動


    という流れになります。
    【3】と【4】、および専門家への相談を繰り返すことで、より充実した制度が実現できるでしょう

    ②適用対象の設定
    まずは、どの範囲の労働者を対象として勤務間インターバルの制度を適用するのかを設定します。勤務間インターバルの制度は、労働者の健康維持や過重労働防止を目的としていますので、原則としては、すべての労働者を対象とするのがよいでしょう。

    もし、勤務形態(たとえば、フレックスタイム制の適用対象となる労働者のみ)や職種(たとえば、介護職に従事する労働者のみ)で適用範囲を限定するのであれば、その理由を明確にして、労働者の理解を得るように努めましょう。

    ③インターバル時間の設定
    インターバル時間として、どのくらいの時間を確保するのかを検討します。助成金との関係では9時間以上とする必要がありますので、9時間がひとつの目安にはなるでしょう。もっとも、9時間のインターバル時間があれば十分というわけではないので、企業の規模や職種に応じて可能な限り長いインターバル時間の設定を目指すことが大切です。

    インターバル時間を設定する際には、労働者の通勤時間も考慮したうえで、適切な休息が確保できているかどうかを検討するとよいでしょう。

    ④インターバル時間の確保に関する社内ルールの検討
    インターバル時間を確保することにより、個々の労働者によって始業時間が変わってくるという事態も生じてきます。労働者の勤務状況を把握するためにも、インターバル時間確保によって翌日の始業時間が変わる場合には、事前に申請するなどの社内ルールを定めておく必要があります。

    ⑤適用除外の設定
    勤務間インターバルを設計するにあたり、適用除外を設定することができます。厚労省が適用除外例として挙げているものには、以下の例があります。このような適用除外を設けることによって、緊急事態にも柔軟に対応できるようになります

    【1】重大なクレーム(品質問題、納入不良)に関する業務
    【2】納期のひっ迫、取引先の事情による納期前倒しによる業務
    【3】突発的な設備のトラブルに対応する業務
    【4】予算、決算、資金調達の業務
    【5】海外事案の現地時間に対応するための電話会議・テレビ会議
    【6】労働基準法33条に基づき災害その他避けることのできない臨時の必要があるとき
  3. (3)規定の整備

    上記の制度の設計ができたら、その内容を就業規則などに明記することになります。厚生労働省は、勤務間インターバルの制度を導入した場合の就業規則の記載として、以下の内容を紹介していますので参考にするとよいでしょう。上記の通り就業規則の変更には厳格な法規制がありますので、作成したものを弁護士に見せるとより良いでしょう

    ①インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合

    (勤務間インターバル)
    第○条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
    2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。


    ②インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複したとき、勤務開始時刻を繰り下げる場合

    (勤務間インターバル)
    第○条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
    2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時刻は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。


    ③災害その他避けることができない場合に対応するために除外を設ける場合、上記①または②の第1項に次の規定を追加します。

    ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。

4、会社の労務管理や就業規則の変更は弁護士へ相談

勤務間インターバルの制度導入にあたっては、制度の設計から規定の整備までしなければなりませんので、企業経営者の方々にとっては負担となります。このような企業の負担を軽減する手段として、弁護士への相談をおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、労働基準法などの労働関係法令に精通した弁護士が在籍していますので、他士業間で相互に連携して経営者の方々のサポートを行うことが可能です

5、まとめ

勤務間インターバルの制度を導入し、十分な休息をとることで労働者の作業効率・意欲向上が期待できます。また、労働者のライフワークバランスの意識は近時着目されている課題であり、この課題に取り組むことは企業のアピールポイントにもなるでしょう。企業の経営者の方は、ぜひとも導入を検討してみてはいかがでしょうか。

勤務間インターバルの導入や会社の労務管理でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでお気軽にご相談ください。

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