法人成りとは? 個人事業主との違いは何?

2021年01月26日
  • その他
  • 法人成り
法人成りとは? 個人事業主との違いは何?

事業をより拡大したいと考えている個人事業主(個人事業者)であれば、一度は法人成りを検討されると思います。

この記事では、法人成りの手続きやメリットついて、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。手続きの流れや、法人になるメリットなどを確認したいときの参考としていただければ幸いです。

1、法人成りとは

法人成りとは、個人事業主が新たに設立した法人に、自身が行っていた事業を引き継がせる行為をいいます。個人事業が好調なときに、規模の拡大を目指して、法人化することが考えられます。

法人とは、権利能力(自ら権利を有し義務を負うことのできる能力)を持つ自然人以外の主体のことをいいます。法人は社団法人と財団法人のふたつに大別できます。このうち営利を目的とする社団法人が会社と呼ばれます。

また、会社には株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4種類があります。このうち、法人成りとして、会社の設立を考える場合には株式会社として設立されることが一般的です。

この記事では株式会社の設立による法人成りを前提として解説します。また、以下の内容では単に「会社」と呼ぶ場合には株式会社を指します。

2、法人成りの流れ

法人成りの手続きは、(1)会社を設立する、(2)会社に個人事業を引き継がせるという2つのプロセスを踏みます。

  1. (1)会社を設立する

    会社を設立するためには、以下の3つを行う必要があります。

    1. ①定款を作成して認証を受け
    2. ②資本金を払い込む
    3. ③登記申請をする。


    順番に、詳細を説明いたします。

    ①定款
    定款とは、会社の根本的な規則です。
    定款には、以下の5項目を記載しなければいけません。

    • 目的
    • 商号
    • 本店の所在地
    • 出資される財産の価額(またはその最低額)
    • 発起人の氏名または名称および住所


    また、定款を作成するにあたっては、法務局にある公証役場で認証を受ける必要があります。

    ②資本金
    定款の認証を受けた日より後に、会社の資本金とする金額を銀行口座に入金しましょう。
    近年、最低資本金の規制が撤廃されたため、資本金の金額が1円でも構いません。

    ③登記
    登記の申請は、本店の所在地を管轄する法務局で行います。
    登記申請をする際には、登記申請書や登録免許税納付用台紙、定款、発起人の決定書、取締役の就任承諾書などが必要です。

    登記の審査には約1週間かかります。なお、法務局から登記手続きが完了したという連絡はありません。

    登記手続が完了したら、会社の設立は完了です。

  2. (2)会社に個人事業を引き継がせる

    ①銀行口座を開設する
    最初に、会社名義の銀行口座を開設します。

    各銀行によって必要な書類は異なります。一般的には、登記事項証明書、定款、代表取締役の印鑑証明書、会社実印などが必要となります。

    登記事項証明書は、設立の登記が完了した後に全国の法務局で取得できます。

    ②会社に資産や負債を承継させる
    個人事業主が抱えていた事業用の資産や負債を会社に承継させます。

    試算の承継の方法として、売買契約、賃貸借契約、現物出資の3種類が考えられます。

    ●売買契約
    個人事業主が会社に資産を売却する方法です。シンプルで簡単な方法ですが、売却額が高額になると個人事業主多額の所得税が課せられるというデメリットがあります。


    ●賃貸借契約
    個人事業主が会社に資産を賃貸する方法です。
    会社に豊富な資金がないときにも利用できることと、名義変更の必要がないことがメリットです。一方で、個人事業主に継続的に賃料が入ってくるため毎年個人事業主として確定申告となるというデメリットがあります。

    ●現物出資
    個人事業主が会社に資産を出資して、対価として株式を受け取る方法です。個人事業主は株式を取得でき、会社は資本金が増えるというメリットがあります。

    もっとも、出資の内容によっては裁判所に選任された検査役の調査が必要となることに注意が必要です。

    ●債務引受
    個人事業主の負債を会社に承継させるには、会社が個人事業主の債務を引き受けるという旨の契約を個人事業主、会社、債権者との間で締結することが一般的です。

    以上のように、資産、負債を承継させる方法はいくつかあり、具体的な内容によって望ましい方法は異なります。そのため、紛争の予防や、節税の観点からは、弁護士や税理士などに相談しながら対応を進めることが効果的です。


    ③個人事業主の廃業手続きをする
    法人成りをした後は、今まで個人事業主として行ってきた事業を廃業するため、個人事業の廃業手続きが必要です。

    ●廃業届出書
    個人事業主は、所得税・個人事業税・個人住民税を納税しています。個人事業を廃業すれば、これらの納税義務がなくなるため、廃業した旨を届け出る必要があります。

    届け出の期限は、会社設立後1か月以内です。

    ●青色申告の取りやめ届出書
    個人事業主のときに青色申告の承認を受けていた場合には、青色申告の取りやめ届出書を税務署に提出する必要があります。
    提出期限は、取りやめようとする年の抑年3月15日までです。

    ●給与支払い事務所等の廃止届出書
    従業員に給与を支払っていた場合、給与支払事務所等の廃止届出書を税務署に提出します。
    提出期限は、廃止の事実があった日から1か月以内です。

    ●事業廃止届出書
    消費税の課税事業者であった場合は、事業廃止届出書を税務署に提出しましょう。
    事業廃止届出書に提出の期限はありません。

    ●所得税の予定納税の減額申請書
    法人成りをすると個人の所得が下がることが一般的です。
    そのため、税務署から通知された予納額が多すぎるときには、予納額を減らしてもらう手続きが必要となります。
    提出時期は、課税時期によって、毎年7月1日から7月15日までか11月1日から11月15日までとなります。

    ●個人事業税の申告
    事業を廃止した個人事業者には、廃止した年の1月1日から事業を廃止する日まで、個人事業税が課税されます。事業の廃止から1か月以内に都税事務所または県税所管事務所・支庁または支所での申告が必要です。


    ④会社設立後の各種届出や申請手続きをする
    会社の設立後には、さまざまな届け出や申請が必要となります。
    提出期限が短いものも多く、過料の制裁がある場合もあるので注意が必要です。
    提出が必要となる届け出の例を下記にあげますので参考にしてください。

    • 設立後2か月以内に税務署に法人設立届出書
    • 設立後3か月以内か事業年度終了の前日のどちらか早い日までに青色申告の承認申請書
    • 設立後15日以内に市町村役所に法人設立届出書
    • 設立後5日以内に年金事務所で新規適用届書

3、個人事業主と法人の違い

以上のように、法人成りするために必要な手続きは多岐にわたります。思った以上に大変だと思われるかもしれません。

法人成りをするかどうかは慎重に検討することが大切です。以下では、個人事業主と法人の主な違いを4つの観点からご紹介します。

  1. (1)法的責任

    事業によって生じた法的責任をだれが負うかという点に違いがあります。
    個人事業主が抱えた負債すべて自分で返済をしなければいけません。返済が滞れば、破産手続きを余儀なくされることもあります。

    他方、法人の事業によって生じた責任を原則、経営者が負うことはありません。ただし、経営者が連帯保証人になっているときには、経営者も責任を負います。

  2. (2)保険

    法人と個人とは、加入すべき保険が異なります。

    個人事業主は一定の場合を除き、社会保険に加入する必要はありません。

    対して、法人は、健康保険、厚生年金保険、介護保険などの社会保険に必ず加入しなければいけません。会社は従業員の給与額面の15%程度(保険や事業の種類によって変動)の社会保険料を負担する必要があります。そのため、雇用する従業員が増えるほど、負担が大きくなります。

  3. (3)税金

    負担する税金の種類。額にも大きな違いがあります。

    ①所得税・法人税
    個人事業主の所得にかかる所得税は、累進課税のため所得金額に対して税率が上がります(最大45%)。

    対して、法人の事業所得にかかる法人税は、資本金1億円以下の法人などの場合、年800万円以下の部分については15%、年800万円超の部分については一律23.20%です。したがって、一般的には800万円以上所得がある場合は、法人成りをした方が課税額は小さくなります。

    ②相続税
    個人事業主の場合は、すべての資産が相続税の課税対象となります。

    他方、法人が所有している資産は、経営者などの個人が有するものではなくなるため、経営者が亡くなっても相続税の対象とはなりません。法人成りをすれば、将来、相続税を支払うことなく事業を子どもに相続させることが可能です。

    また、個人事業主の相続人となりうる人に対して、死亡前に設立した法人の資産を役員報酬として支払えば、将来払うこととなる相続税や贈与税を減額することができます。ただし、その分の所得税はかかることに注意が必要です。

    ③消費税
    消費税については、個人事業主と法人で原則として違いはありません。
    どちらも、2年前の売上高が1000万円を超えているのであれば、課税事業者となります。他方2年前の売上高が1000万円を超えていない場合、消費税は免除されます。

    そのため、1000万円超えて売り上げていた個人事業主でも、法人成りすれば、最長2年間、納税義務が免除されます。新しい法人は個人事業主とは別人格として見られ、過去の売り上げ実績はないものとしてスタートするためです。

    たとえば個人事業主として開業し、2年後に法人成りすれば、最大で4年の免除期間を得ることができます。

    ただし、法人成りをしてから第1期の最初の6か月の売り上げと給料のいずれもが1000万円を超えた場合には、納税義務の免除は1年間だけとなります。

  4. (4)社会的信用

    法人と個人を比較すると、法人の方が社会的信用を得やすいという違いがあります。

    法人は厳格な設立手続きを経て設立されます。また、法人化のメリットは所得が大きくないとえることができません。そのため、法人の方が社会的に信用されやすい状態にあります。

    社会的信用を得ることで、より多くの企業と取引したり、優秀な人材を確保したりできることが期待できます。また、銀行から融資を受けやすくなる、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから出資してもらえる可能性が高くなるなど、事業発展に欠かせない資金調達面でも有利に働きます。

4、顧問弁護士を依頼するメリットとは

今後も事業を大きくしていきたいと考えているなら、法人成りをしたほうが有利なことが多いです。ご紹介した側面以外にも法人成りにはさまざまなメリットがあります。

しかし、法人成りをするためには、たくさんの煩雑な申請や届け出を手際よく行わなければいけません。従業員を雇用することになれば、雇用契約書や就業規則など、さらに多くの書類が必要となります。

一方で、個人事業主時代の資産や負債をどう承継させるのがいいかなど、ひとつひとつ慎重に判断することも求められます。

そのため、法人成りを検討する場合、弁護士や税理士、社会保険労務士など法律に精通した専門家に相談するのが安心です。

中でも特におすすめなのが、顧問弁護士を雇うことです。顧問弁護士についてもらえば、逐次アドバイスをもらえるだけでなく、必要な書類の収集や書類作成も、してもらえます。さらに、法人化したあとでも、気軽に法的な相談やサポートの依頼ができ、事業活動に安心して注力することが可能です。

5、まとめ

法人成りの手続きやメリットには、ある程度共通点があるものの、一人一人の状況によって千差万別です。法律に精通していない人が、それらをひとつひとつチェックすることは、現実的には難しいでしょう。

法人成りを検討しているのであれば、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています