遺産分割協議のやり直しに期限はある? 手続きと時効の注意点
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遺産分割協議を終えた後に、遺産分割協議の時点では判明していなかった遺産が発見されることがあります。
当初の遺産分割協議で、将来新たな遺産が見つかった場合の対応も決めていればよいですが、そうでない場合には、新たに発見された遺産も含めて、再度遺産分割協議をすることができるのでしょうか。また、再度の遺産分割協議をする場合には、期限などはあるのでしょうか。
今回は、遺産分割協議をやり直す場合の期限とその注意点について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割をやり直しできるケース
遺産分割協議が成立した場合には、協議に法的拘束力が生じます。そのため、原則として、遺産分割をやり直すことはできません。しかし、以下のようなケースであれば、例外的に遺産分割のやり直しが可能です。
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(1)相続人全員の同意がある場合
すでに遺産分割協議が成立していたとしても、相続人全員が遺産分割協議をやり直すことに同意をしているのであれば、遺産分割協議のやり直しができます。
遺産分割をやり直したいという事情がある場合には、他の相続人を説得して、遺産分割協議のやり直しに応じてもらうようにしましょう。 -
(2)無効な遺産分割協議であった場合
当初の遺産分割協議が無効であった場合、その協議内容に法的拘束力はありませんので、あらためて遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議が無効になるケースとしては、以下のようなケースがあります。- 相続人の一部を除いて遺産分割協議を成立させた場合
- 認知症で判断能力のない相続人が遺産分割協議に参加していた場合(民法3条の2)
- 未成年者の相続人が遺産分割協議に参加していた場合(民法826条1項)
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(3)高額な遺産が新たに見つかった場合
遺産分割協議が成立後、新たに遺産が見つかった場合にも遺産分割協議のやり直しができる場合があります。
新たに見つかった遺産が高額な遺産であり、その遺産があることを知っていれば当初の遺産分割協議はしていなかったといえる場合には、錯誤を理由として、当初の遺産分割協議を取り消すことが可能です(民法95条1項)。遺産分割協議が取り消された場合には、新たに見つかった遺産を加えて、遺産分割協議をやり直すことになります。
一方で、新たに見つかった遺産の金銭的な価値によっては、遺産分割協議をやり直す必要がない場合もあります。このような場合には、当初の遺産分割協議の取り消しまでは認められませんので、新たに見つかった遺産のみを対象にして遺産分割協議を行うことになります。 -
(4)詐欺や強迫によって遺産分割に同意をした場合
相続人にだまされて遺産分割協議に応じてしまった場合や相続人に脅されて遺産分割協議に応じてしまった場合には、詐欺や強迫を理由に、当初の遺産分割協議を取り消すことが可能です(96条1項)。
2、時効や期限はある?
遺産分割協議をやり直すことになった場合には、時効や期限などはあるのでしょうか。
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(1)遺産分割のやり直しには期限はない
遺産分割協議自体には、法律上、時効はありません。設けられていません。したがって、遺産分割協議の再協議も時効はなく、理論上はいつでも再協議をすることが可能です。
ただし、民法改正によって、令和5年4月1日から遺産分割において特別受益や寄与分を主張する場合には、相続開始から10年までという期限が設けられることになりました。
そのため、遺産分割協議において、特別受益や寄与分の主張を行う予定があるという方は、相続開始後10年以内に遺産分割のやり直しをしなければなりません。 -
(2)取消権の時効に注意が必要
当初の遺産分割協議を取り消して、遺産分割協議のやり直しをする場合には、取消権の時効についても注意しなければなりません。
民法では、取消権の時効期間を以下のように定めています。- 追認することができるときから5年(民法126条前段)
- 行為(遺産分割協議の終了時点)のときから20年(民法126条後段)
たとえば、新たに遺産を見つけたときや、だまされて遺産協議が成立してから5年を経過してしまうと時効によって取消権を行使することができません。そのため、錯誤、詐欺や強迫などの取消原因があることに気付いた場合には、早めに取消権を行使することが大切です。
3、やり直しをするときの注意点
遺産分割のやり直しをする場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)遺産分割後に第三者が遺産を取得した場合には取り戻せない可能性がある
遺産分割協議が成立した後、各相続人が相続した不動産を第三者に譲渡することがあります。このように第三者が遺産である不動産を取得した場合には、遺産分割のやり直しをしたとしても遺産を取り戻すことができない可能性があります。
相続人全員の合意によって、遺産分割のやり直しをする場合は、登記の先後によって優先順位が決められます。不動産を取得した第三者がすでに所有権移転登記を済ませてしまっている場合には、第三者が優先することになりますので、遺産を取り戻すことはできません(民法177条)。
また、錯誤、詐欺や強迫を理由に遺産分割協議を取り消して、遺産分割協議のやり直しをする場合は、第三者が相続人にそのような事情があったことを知っていた、あるいは過失によって知らなかった場合に限って、遺産の取り戻しを求めることができます(民法95条4項、96条3項)。
もっとも、第三者が相続人の主観的な事情まで知っていることを証明することは一般的には難しいと考えておいた方がいいでしょう。 -
(2)贈与税が課税される可能性がある
当初の遺産分割協議に無効や取り消しといった法的な瑕疵(かし)がある場合には、当初の遺産分割協議の効力は否定され、新たに遺産分割協議を行うことになります。新たな遺産分割協議は、税務上は1回目の遺産分割協議として扱われますので、二重に税金が課税されることはありません。
しかし、相続人全員の合意によって遺産分割をやり直す場合には、有効な遺産分割協議に基づいて、再度財産の移転を行うことになります。
やり直し後の遺産分割は、税務上、相続人間で贈与や譲渡があったものと扱われますので、相続税とは別に贈与税などが課税される可能性があります。 -
(3)不動産の登記を済ませている場合は登記費用がかかる
遺産分割協議が成立し、すでに登記を済ませている場合には、遺産分割のやり直しによって、再度、不動産の登記を行わなければなりません。司法書士に依頼した場合には、司法書士等に支払う報酬や登録免許税なども発生してしまいます。
遺産分割協議をやり直す場合には、税金や登記費用などのコストがかかるというデメリットがありますので、遺産相続のやり直しをすべきかどうかは慎重に判断するようにしましょう。
4、遺産分割トラブルは弁護士へ
遺産分割に関してトラブルが生じた場合やトラブルを回避するためには、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)正確な相続財産調査で遺産の漏れを防ぐ
遺産分割のやり直しが必要になる場合としては、相続財産調査が不十分で、遺産分割協議の前提となった遺産に漏れがあることが挙げられます。
相続人であったとしても、被相続人の財産を全て把握しているというわけではありません。また、相続人に、相続に関する知識や経験がなければ、相続時にどのような調査をすればよいか分からない場合が多いでしょう。弁護士であれば、必要な調査方法や照会先を熟知していますので、迅速かつ正確に被相続人の相続財産を把握することが可能です。
遺産の漏れによる遺産分割協議のやり直しを防止するためにも、相続財産調査は弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(2)無効や取り消しを争う相続人がいる場合には裁判が必要
遺産分割協議に無効または取消原因がある場合には、無効または取り消しを主張することによって、遺産分割協議をやり直すことができます。
しかし、無効や取り消し原因の存在を争う相続人がいる場合には、遺産分割協議が無効であること裁判によって確定させなければ、遺産分割協議をやり直すことができません。
裁判では、無効や取り消しを主張する側でそのような事情があることを主張立証する必要があります。そのため、法的知識や経験がなければ適切に訴訟手続きを進めることは難しいといえます。
遺産分割に関する紛争が生じている場合には、弁護士に任せるのが安心といえるでしょう。 -
(3)弁護士が介入することで冷静な話し合いが可能
相続人間で話し合いを進める場合、当事者間で意見の衝突などから感情的な対立が生じてしまい、遺産分割の話し合いを進めることができなくなってしまうことがあります。
このような場合には、第三者である弁護士を介することによって、冷静に話し合いを進めることが可能です。弁護士から法的根拠や証拠に基づいて、遺産分割案の妥当性を説明することによって、それまで反対していた相続人からの納得も得られやすくなるというメリットもあるといえます。
相続人間でトラブルが予想される場合やご自身で対応するのが難しいと感じる場合には、早めに弁護士に相談をするとよいでしょう。
5、まとめ
遺産分割協議のやり直しには、期限はありません。しかし、今後の改正民法施行により特別受益や寄与分の主張をする場合には10年以内に行わなければならず、取消権を行使して遺産分割協議のやり直しをする場合には、5年以内に取消権を行使する必要があります。
また、遺産分割協議のやり直しには、遺産を取得した第三者との関係や課税上のリスクなども踏まえたうえで対応する必要があります。
遺産分割のやり直しをお考えの方は、遺産トラブルの解決実績があるベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています