在宅事件の流れとは? 身柄事件との違いや起訴の可能性を弁護士が解説
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東京地検立川支部は令和3年1月、作業員5人が死亡した火災について、業務上過失致死傷などの罪で、作業員2人を在宅起訴しました。
このように、被疑者が身柄を拘束されず、自宅にいる状態のまま捜査される事件を「在宅事件」といいます。反対に逮捕されて警察に身柄が確保される事件は「身柄事件」と呼ばれます。
警察が捜査する事件といえば犯人が逮捕されている場面を連想する方が多いと思いますが、実は統計上、身柄事件よりも在宅事件の方が件数は多いのです。
もし、ご自身の身内が事件を起こして、在宅事件となった場合、どのような手続きで捜査が進むのか不安に思う方もいるでしょう。
今回は、在宅事件の概要や手続きの流れ、在宅事件の捜査対象となった場合にとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、在宅事件とは?
「在宅事件」とは、被疑者の身体が拘束されないまま捜査が進められる事件のことです。被疑者は日常生活を送りつつ、警察や検察から呼び出しがあると、取り調べを受けることになります。
在宅事件のパターンは、以下の3つです。
- 逮捕されずに取り調べの時のみ警察・検察に呼び出される場合
- 逮捕後、警察に取り調べを受けたが、送検される前に身柄を解放される場合
- 逮捕後、警察・検察による取り調べを受けた後に身柄を解放される場合
もちろん、自宅に戻ってこられたからといって、無罪放免となるわけではありません。捜査の結果、起訴されて有罪となれば、前科がつくことになります。
2、在宅事件となる条件はあるのか
そもそも、捜査の対象となったのになぜ自宅に帰されたのか、疑問に感じる方もいるかもしれません。
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(1)軽微な事件である
在宅事件は比較的被害の程度が軽微な犯罪であることが前提です。たとえば万引きや暴行、迷惑防止条例違反の痴漢などが在宅事件となる可能性があります。
一方、殺人や放火、強制性交等といった懲役刑のみの重罪や、多額の罰金刑が法定されている犯罪は、在宅事件にはなりにくいでしょう。
また、軽微な犯罪が必ず在宅事件になるというわけではありません。被疑者本人が非常に反省していて、被害もわずかであるなどの条件を満たした場合に、在宅事件とされやすいです。 -
(2)逃亡や証拠隠滅のおそれがない
「逃亡のおそれがない」と考えられるのは、被疑者に家庭がある、前科前歴がない、定職があり役職についているなどのケースです。このような状況であれば、逃亡して今の生活を捨てるとは考えにくく、逃亡のおそれがないと判断されやすくなります。
「証拠隠滅のおそれがない」と判断するポイントは、共犯者や余罪の有無、目撃者への接触可能性、証拠隠滅のしやすさなど、さまざまです。
また、犯行の手口や程度から予想される刑罰が軽い場合は、証拠隠滅をすると、むしろ刑罰が重くなるリスクが高まるため、証拠隠滅のおそれなしと判断されやすくなります。
ただし、在宅事件になったとしても、逃亡や証拠隠滅のおそれが生じたとみなされると、その時点で逮捕され身柄事件に切り替わる可能性があるため、注意が必要です。
3、「身柄事件」と「在宅事件」における裁判までの流れ
ここでは、刑事事件の基本的な流れを踏まえて、在宅事件と身柄事件、それぞれどのように進んでいくのか確認していきましょう。
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(1)身柄事件の場合
身柄事件では、逮捕後、警察で48時間を上限に取り調べが行われます。その後、事件が検察庁へと引き継がれ、24時間を限度に取り調べが行われます。
検察が引き続き身柄を拘束して捜査する必要があると判断すると、勾留請求がなされます。そして裁判所が勾留の必要性があると認めた場合には、被疑者は勾留されることになります。勾留期間は最長で20日です。
勾留期間が満了するまでに検察によって起訴、不起訴の判断がなされ、起訴されると裁判へと移行します。 -
(2)在宅事件の場合
在宅事件は、以下のいずれかの流れで進みます。
- そもそも逮捕されない→書類送検→在宅起訴
- 逮捕後送検前に釈放→書類送検→在宅起訴
- 逮捕→送検→釈放→在宅起訴
「書類送検」とは、被疑者を逮捕していない、もしくは送検前に釈放している状況で、検察官に事件を送検することです。
在宅事件では、検察に送検された後、捜査が行われた結果、起訴と判断されると「在宅起訴」という形で起訴され、裁判となります。
4、在宅事件扱いになった方がよい理由
逮捕される身柄事件と、逮捕されない在宅事件は、起訴までの流れそのものに違いがありますが、ほかにはどのような点が異なるのでしょうか。詳しく、見ていきましょう。
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(1)仕事や学校など日常生活への影響が少ない
身柄事件では起訴・不起訴の決定までに最長で23日もの身柄拘束を受けるため、仕事や学校など日常生活への影響が甚大です。会社や学校に事件の事実が知られ、処分を受けることも考えられます。また、逮捕段階の72時間はたとえご家族であっても接見できないので、本人はもとより、ご家族も非常に不安な思いをするでしょう。
一方、在宅事件ではすぐ自宅へ帰されるか、数日の拘束で解放されるため、すぐに会社や学校へ行くことも可能です。周囲に知られるリスクが少なく、当然ご家族とも比較的すぐに会うことができます。 -
(2)今後の対応を練る余裕がある
在宅事件では日常生活を送ることができる一方で、身柄事件のように起訴・不起訴までの期限がないため、事件が長期化しやすいです。処分の結論がでるまで数か月~1年以上かかることもあり、本人やご家族は長い間不安定な状況に置かれてしまいます。
この点は在宅事件のデメリットでもあります。もっとも十分な時間があるため、今後の対応をしっかり練る余裕がある点では、メリットといえます。
5、在宅事件中に家族ができる対応
在宅事件とされた本人のためにご家族ができることは何があるのでしょうか。
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(1)本人をしっかり監視、監督する
在宅の間、本人は反省をし、更生を目指すことが非常に大切です。本人の反省の度合いによって、検察官や裁判官の心証が大きく変わります。たとえば、反省文を書いて検察に提出することも不起訴となるためには重要なポイントとなるでしょう。
ただ、在宅の間に別の事件を起こしたり、どこかへ逃げようとしたりすれば、身柄事件に切り替わるだけでなく、重い処分となる可能性も生じます。そうした事態を防ぐため、ご家族は、在宅中に本人をしっかりと監督しましょう。
また、捜査機関からの呼び出しがあるか否か、ご家族もしっかりと確認するようにしてください。
呼び出しは、呼び出し状が送付されてくる、電話がかかってくる、などの方法で行われます。もしくは、取り調べ時に次回の日程を伝えられることもあり、本人が無視をしていないか確認し、呼び出し日時に捜査機関へ行くよう監督しましょう。
もし、本人の仕事の都合で期日に出向けない場合は、捜査機関へしっかり説明してお願いすると、可能な限り日程調整の対応してもらえることもあります。
ただ、日常生活を送れているとはいえ、本人が長期の出張や単身赴任を引き受けると呼び出しに応じられなくなり、身柄事件への変更も考えられるでしょう。そのような行動は慎むように注意してください。 -
(2)弁護士を選任する
在宅事件では、身柄事件のように、起訴前に国選弁護士人を利用する制度がなく、弁護士を選任できる旨が告げられる機会もありません。しかし、逮捕、起訴される可能性が残っている以上、弁護活動は必要です。在宅だからといって安心するのではなく、弁護士をつけて適切な対処を行うことで逮捕や起訴を回避できる可能性が高まります。
起訴されてしまった後に弁護士を選任しても手遅れになることもあり、在宅事件であっても速やかに弁護士を頼ることが重要です。 -
(3)示談交渉を行う
在宅中に弁護士を通じて被害者と示談交渉をし、被害弁済や謝罪を済ませておけば、在宅起訴される可能性を下げることができます。
ただし、ご家族が被害者と交渉することは避けましょう。被害者感情を考えれば、たとえご家族であっても示談に応じてもらえる可能性は低いです。さらに、むやみに接触することで、余計に処罰感情が高まるかもしれません。また、法外な示談金を請求されてしまい、結果として示談が不成立となることもありえます。
もちろん、本人が直接被害者と会うことも避けるべきです。本人は不安のあまり被害者に謝りに行きたいと言い出すようなことがあるかもしれませんが、被害者の気持ちを考え、ご家族が冷静に抑止しましょう。
謝罪の意は弁護士からしっかりと伝えてもらうようにしてください。
6、まとめ
今回は在宅事件について、身柄事件との違いや手続きの流れ、在宅中の対応などを解説しました。在宅事件で身柄拘束を受けないことは、本人やご家族にとって非常に大きな意味を持ちます。ただし、事件が終わったわけではありませんので、在宅中にできる限りの対応をし、不起訴処分を目指すことが大切です。そのためには速やかに信頼できる弁護士を選任し、今後の対応についてサポートを受ける必要があります。
身内の方が嫌疑をかけられ在宅事件となった場合は、刑事事件の知見が豊富なベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士まで、ご一報ください。
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