誤認逮捕とは? 冤罪であれば警察に賠償金を請求したいが可能か

2024年06月18日
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誤認逮捕とは? 冤罪であれば警察に賠償金を請求したいが可能か

令和6年3月、警察庁が立川市と同じ多摩北部に在住していた技能実習生を誤認逮捕したという報道がありました。誤認逮捕は、絶対にあってはならない事態です。しかし、この事例のように捜査側の落ち度で実際に発生しているため「絶対にあり得ない」とはいえません。しかし、誤認逮捕されてしまった人の多くは、逮捕報道や長期の身柄拘束によって重大な不利益を被っているという事実があります。

そこで本コラムでは、誤認逮捕についての基礎知識から、もし警察に誤認逮捕されたらその後どうなるのか、無実であることや冤罪であることが明らかにできた場合において、誤認逮捕した警察に慰謝料などの賠償を求めることは可能なのか、どう対応すべきかについて、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。


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1、誤認逮捕とは?

まずは「誤認逮捕」という用語の意味を確認していきましょう。

  1. (1)「誤認逮捕」の意味と「冤罪」との違い

    誤認逮捕とは、罪を犯した事実がないのに容疑をかけられて逮捕されることをいいます。

    近い用語に「冤罪(えんざい)」がありますが、冤罪は無実であるのに刑事裁判で有罪判決を受けて刑罰が科せられることを意味するため、誤認逮捕は冤罪へとつながる危険性もあります。

    誤認逮捕が生じるほとんどの原因は、警察などの捜査機関にあります。裏付け捜査をせずに目撃証言をうのみにした、証拠を探す捜査を怠ったなどのヒューマンエラーが一因と考えられます。

  2. (2)「逮捕」とは|推定無罪の原則との関係

    誤認逮捕を理解するうえで正しい知識を求められるのが「逮捕」です。

    逮捕とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある者の身柄を拘束し、逃亡や証拠隠滅を防ぐための強制手続きとして位置づけられています。

    裁判官の審査を受けたうえで令状の発付を受けて逮捕する「通常逮捕」を原則としていますが、「現行犯逮捕」や、一定の重大事件について急速を要するときだけ認められる「緊急逮捕」という例外も認められています。

    ニュースや新聞の報道をみていると、逮捕された容疑者はまるで「犯人」かのように報じられることも少なくありません。

    しかし、わが国の刑事手続きには「推定無罪の原則」という考え方が存在しています。
    推定無罪の原則とは、刑事裁判で有罪判決を受けない限り、容疑をかけられているとしても「無罪」として扱わなければならないという考え方です

    つまり、逮捕の段階では犯人として扱われるべきではありません。

    しかしながら、現実には逮捕された時点で犯人と決めつけた処遇が許され、社会も「犯人だ」と決めつける流れが横行しています。誤認逮捕された人の多くは、たとえ無実であることが証明されたとしても大きな不利益を強いられる可能性が高いといえます。

2、誤認逮捕の事例

誤認逮捕は絶対にあってはならないことです。しかし、実際に誤認逮捕は発生しています。
誤認逮捕の実例を紹介しましょう。

  1. (1)不法残留を疑われて誤認逮捕された事例

    令和3年11月、在留期限を越えて日本に滞在した容疑でベトナム籍の男性が「入管難民法違反(不法残留)」として逮捕されました。

    この事例では、酒気帯び運転の容疑で捜査を受ける過程で在留カードの期限が切れていたため不法残留の容疑で現行犯逮捕されましたが、男性は「更新手続きは済ませた」旨を主張して容疑を否認します。そこで、捜査機関が改めて東京入管に照会したところ、すでに在留カードが更新されていたことが判明したため、直ちに釈放されました。

  2. (2)違法薬物の簡易検査結果から誤認逮捕された事例

    令和3年9月、渋谷区の路上で大麻の葉のようなものを所持していた男性が逮捕されました。警察官による職務質問を受けた際に大麻の葉のようなものが発見されたため、その場で薬品による簡易検査が実施されましたが、その際は違法薬物であることを示す反応が出たとのことです。

    しかし、後日の正式鑑定によって違法な成分は検出されなかったため、誤認逮捕が認められて即日で釈放されました。

3、誤認逮捕されたら賠償を求めることはできるのか?

誤認逮捕が判明すれば「責任を取ってほしい」と考えるのは当然です。ここでは、誤認逮捕に対する賠償制度について確認していきましょう。

  1. (1)誤認逮捕に対する賠償制度

    誤認逮捕されてしまった人には、以下のような賠償制度が用意されています。

    ● 誤認逮捕後、勾留を受けたが不起訴となって釈放された場合
    「被疑者補償規程」(法務省訓令)第2条の定めによって、身柄拘束を受けた1日あたり1000円以上1万2500円以下が補償されます。

    ただし、被疑者補償規程による補償は「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」に限られる制度です。完全に疑いが晴れた場合は補償が期待できる一方で、疑いは残るもののさまざまな事情を考慮して不起訴となったようなケースでは、補償を受けられません。

    ● 検察官に起訴され、刑事裁判で無罪判決が言い渡された場合
    日本国憲法第40条は、無罪判決を受けたときは「国にその補償を求めることができる」と明記しています。

    この定めを受けて創設されたのが「刑事補償法」です。刑事補償法では、誤認逮捕による身柄拘束の期間だけでなく、有罪判決を受けて懲役・禁錮・拘留に服した期間も補償の対象としています

    補償される金額は、被疑者補償規程と同じく、身柄拘束を受けた1日あたり1000円以上1万2500円以下です。

  2. (2)国家賠償法にもとづく請求は難しい

    被疑者補償規程や刑事補償法による補償を受けられない、あるいはこれらの補償では不十分である場合、残された選択肢としては「国家賠償法」にもとづく補償の請求が考えられます。

    同法第1条1項には、公務員が職務において「故意または過失によって違法に他人に損害を加えたとき」を賠償の対象としており、誤認逮捕はまさに「公務員の過失」だといえるでしょう。

    ただし、国家賠償法にもとづく請求では、賠償を求める側が「公務員の過失」等の要件を満たしていることを証明しなければなりません。被疑者の特定方法、証拠の認定方法などを詳しく分析したうえで捜査機関の過失をみきわめ、客観的な証拠を示す必要があるため、国家賠償法にもとづく請求は極めて難しいと考えておくべきです。

4、誤認逮捕されたらどうなる? 前科はつく?

誤認逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?

  1. (1)身柄拘束を受ける

    容疑が晴れるまでの間は、法律の定めにもとづいた身柄拘束を受けます。逮捕後、警察の段階で48時間以内、検察官へと送致されるとさらに24時間以内の身柄拘束が続きます。

    この期間は、帰宅できない、会社や学校へ通えない、自由に連絡できないだけでなく、さらに家族との面会も許されません。

    さらに、検察官が勾留を請求して裁判官が許可すると、最長20日間にわたる身柄拘束が続きます。逮捕から合計すると最長で23日間にわたる身柄拘束を受けるため、会社・学校・家族との関係に甚大な悪影響をおよぼすことになるでしょう。

  2. (2)誤認逮捕が判明すれば釈放される

    捜査の過程で、真犯人が逮捕された、犯行が明らかに不可能である証拠が発見されたといった状況があれば、捜査機関側も誤認逮捕を認めざるを得ません。直ちに逮捕・勾留が解除され、即日で釈放されることになるでしょう。

    ただし、同時に別の事件で容疑をかけられている場合、その事件についての捜査は続行されます。

    たとえば、先に挙げた酒気帯び運転をきっかけに不法残留の容疑で逮捕されたケースでは、不法残留による誤認逮捕が判明して釈放されても、酒気帯び運転の捜査までもが打ち切られるわけではありません。

  3. (3)前科はつかないが逮捕歴は残る

    誤認逮捕が判明すれば直ちに釈放されるため、刑事裁判には発展しません。日本国憲法第31条は、誰であっても適法な裁判によらなければ刑罰を科せられない旨を定めているので、誤認逮捕だと判明すれば「前科」はつかないことになります

    ただし、ニュース・新聞などで「逮捕された」と報じられた事実が消えることはありません。
    一度逮捕の事実が報道されると、事件から時間がたっても、インターネット上等にその情報が残り続ける可能性が高いため、就職や結婚などの機会で不利になるなど、前科がついてしまう以上の不利益をまねく可能性があります。

5、逮捕されたら、直ちに弁護士へ

無実なのに犯罪の容疑をかけられて逮捕されてしまった、あるいは逮捕の危険があるといった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。

  1. (1)早期釈放が重要

    誤認逮捕であっても、捜査機関が「犯罪の容疑がある」と判断した場合は最長で23日間にわたる身柄拘束を受けるおそれがあります。社会から隔離される状況が長引けば解雇・退学などの危険も増すため、早期釈放が肝心です。

  2. (2)誤認逮捕を証明するには弁護士のサポートが必須

    真犯人ではないことが明らかになれば即時釈放されますが、身柄拘束を受けている本人が証拠を集めることはできません。また、犯罪や刑事手続きの知識・経験をもたないご家族が有効な証拠を集めるのも難しいでしょう。

    刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士にサポートを求めれば、誤認逮捕であることを証明できる有効な証拠の収集が期待できます

    逮捕後の72時間は、たとえ家族であっても逮捕された本人との面会は許されません。「誤認逮捕だ」と外部に伝える方法は、自由な接見を認められている弁護士が頼りになるでしょう。

6、まとめ

「誤認逮捕」は絶対にあってはならないことです。しかし、実際には無実であるのに逮捕されるという事態が起こっているのが現状で、ニュースや新聞でもたびたび報道されています。

警察に逮捕されると、事件によっては実名報道されてしまうことがあります。さらには長期にわたる身柄拘束を受けてしまう可能性があるため、社会生活に大きな悪影響が生じます。疑いを晴らし、早期釈放を実現するためには、弁護士のサポートが欠かせません。また、誤認逮捕を受けて賠償を求めたい場合も、弁護士の的確なアドバイスとサポートは必須です

誤認逮捕されてしまった方やそのご家族、誤認逮捕されたものの容疑は晴れたが賠償を求めたいと考えている方は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。

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