故人を侮辱したら、罪に問われる? 遺族から訴えられることはある?
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SNSなどネット上での誹謗中傷や個人攻撃が後を絶ちません。このような現状を打開するための一方策として、東京都教育委員会は児童・生徒を対象とした「SNS東京ルール」を策定し「送信前に相手の気持ちを考えて読み返す」というルールを設けました。
さらに立川市では独自に「立川SNS学校ルール」を策定し、発達段階にあるうちにネット上のモラルやマナーを向上させる方策が採られています。
なお、誹謗中傷は、存命中だけでなく、「故人」に攻撃が向けられてしまう場合もあります。亡くなってしまった人を侮辱したら罪は成立するのでしょうか? 本コラムでは「故人」を侮辱した場合に問われる可能性のある罪について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、故人を侮辱した場合に成立する犯罪
現に生存している人を対象に誹謗中傷すると、刑法の侮辱罪や名誉毀損罪に問われる可能性があります。
では、すでに亡くなっている故人を対象に、生前の行動や人格などを攻撃するとどのような罪が成立するのでしょうか?
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(1)侮辱罪は成立しない
刑法における「人」とは、自然人や会社などの法人を指すものと考えられています。そして、死者は「人」には含まれません。
刑法第231条の侮辱罪は、公然と人を侮辱した者を処罰の対象としています。条文に「人」と明記されているので、死者は本罪による保護を受けません。
したがって、死者に対する侮辱罪は成立しないことになります。たとえば、SNSで故人を指して「彼はバカだった」「日ごろのおこないが悪いから命を落とした」などと侮蔑しても刑事責任を問われることはありません。 -
(2)名誉毀損罪が成立する可能性はある
誹謗中傷で問われ得る罪として侮辱罪とともに代表的なものが、刑法第230条の名誉毀損罪です。
本罪は、「人の名誉を毀損した者」を処罰の対象としていますが、侮辱罪とは異なり、同条2項において、「死者の名誉を毀損した者」も条件付きで処罰する旨が明記されています。
したがって、誹謗中傷の対象が死者である場合は、侮辱罪には問われませんが、名誉毀損罪は成立する可能性があります。
2、名誉毀損罪が成立する要件|故人の場合
故人に対する誹謗中傷などで名誉毀損罪が成立する要件をさらに詳しくみていきましょう。
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(1)名誉毀損罪の成立要件
名誉毀損罪(刑法230条)は、公然と事実を摘示することで人の名誉を毀損した場合に成立します。
ここでいう「公然と」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態という意味です。
SNSやインターネット掲示板はまさに不特定・多数のユーザーが閲覧可能であるため、公然性が認められる可能性は高いでしょう。
なお、承認したユーザーしか閲覧できない、いわゆる「鍵アカ(鍵付きアカウント)」による投稿についても、承認を受けたユーザーが拡散する危険があるなどの理由から、公然性が認められる可能性は十分考えられます。
刑法230条にいう「事実」とは、社会的評価を低下させる具体的な事実をいいます。本罪における「事実」はその真偽を問いませんので、虚偽の事実であったとしても、社会的評価を低下させる事実であれば、名誉棄損罪にいう「事実」に該当します。
なお、侮辱罪は「事実の摘示」がなくても公然と人を侮辱した場合に成立します。たとえば「バカ」や「デブ」といった客観的に確認できない内容は具体的な事実ではなく、評価ですので、名誉毀損罪ではなく侮辱罪が成立します。 -
(2)故人の場合は「虚偽の事実」の摘示が必要
死者に対する誹謗中傷で名誉毀損罪が成立するためには「虚偽の事実を摘示すること」という用件が認められなければいけません。
自然人を対象とした場合は事実の真偽を問わないので、嘘やでたらめはもちろん、客観的な真実であっても社会的評価を低下させる内容であれば名誉毀損罪の処罰対象になります。
他方で、死者に対する名誉棄損の場合、その内容が虚偽でなければ名誉毀損罪は成立しません。
たとえばSNSで「Aさんは会社のお金を横領していた」と投稿した場合、Aが生存していれば実際に横領していても投稿者は名誉毀損罪に問われますが、Aが死者に該当する場合、横領の事実があれば名誉毀損罪は成立しません。
3、刑罰だけではない! 遺族から訴えられる可能性もある
死者に対して誹謗中傷をした場合と、刑罰を受けるだけでなく故人の遺族から損害賠償請求をされる可能性もあることを覚えておきましょう。
令和4年9月、過去にオリンピックの男子マラソンで入賞した人物の元上司について、「選手を自殺に追い込んだ人物」という記事を掲載した出版社が、元上司の長男から損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて訴えられたと報じられました。
過去に死者の名誉を保護する訴えが認められたケースは確認されていません。しかし、誹謗中傷が大きな社会問題となっている現代では、裁判所の考え方が変わる可能性もあります。もし、本件で遺族側の訴えが認められれば、死者に対する名誉毀損でも損害賠償が可能という前例になるでしょう。
また、事件や事故などで亡くなった人について誹謗中傷するなかで遺族に向けた誹謗中傷がある場合、遺族から損害賠償請求などを受けるかもしれません。
4、故人への侮辱・名誉毀損トラブルの解決は弁護士のサポートが必須
死者に対して、あるいは事件や事故によって亡くなってしまった方の遺族への誹謗中傷は、侮辱罪や名誉毀損罪に問われてしまう可能性があるだけでなく、損害賠償請求などを受けてしまうおそれもあります。
トラブルに発展してしまえば個人の力だけで解決するのは難しいので、弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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(1)逮捕・刑罰の回避に向けた弁護活動
法律の定めに従えば、たとえ故人が対象でも誹謗中傷が犯罪になる可能性があります。犯罪の容疑者として警察の捜査対象になれば、逃亡・証拠隠滅を防ぐために逮捕されてしまうかもしれません。
逮捕による身柄拘束の期間は最大72時間、逮捕に続いて勾留を受けてしまうとさらに最大20日間にわたって社会から隔離されてしまいます。もちろん、その期間は自宅に帰れず、仕事や学校にもいけません。さらに、検察官が起訴に踏み切れば刑事裁判が開かれ、犯罪にあたることが証明されると刑罰が科せられます。
侮辱罪の法定刑は1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法231条)、名誉毀損罪は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です(刑法230条)。
たとえ罰金や科料といった金銭を徴収される刑罰を受けるにとどまったとしても前科がついてしまいます。
このようなリスクを考えれば、逮捕や刑罰は何としても避けたいところです。弁護士は、故人の遺族との示談交渉や捜査機関へのはたらきかけなどの弁護活動によって、逮捕・刑罰の回避をサポートします。
刑事事件を穏便に解決するために何よりも大切なのはスピーディーな対応です。依頼が早ければ早いほど有利な結果が期待できるので、ひとりで悩むよりもまず弁護士への相談を急ぎましょう。 -
(2)民事訴訟に対応するための弁護活動
故人に対する誹謗中傷を理由として遺族から損害賠償請求などの訴えを起こされてしまった場合も、やはり弁護士のサポートは必須です。
個人で対応していると、裁判の期日にあわせて仕事を休んだり、故人の遺族側の主張に対抗する証拠を自分で集めたりと、その負担は決して軽くありません。
弁護士に依頼すれば、出廷や証拠収集といった対応を一任できるので負担が大幅に軽減できるだけでなく、法廷外での交渉による早期和解も期待できます。また、賠償金の減額交渉も可能なので、過度に大きな負担が生じる事態も回避できるでしょう。
5、まとめ
死者を対象に誹謗中傷をした場合、侮辱罪は成立しないものの、名誉毀損罪に問われる可能性があります。状況次第では逮捕され、厳しい刑罰を科せられてしまうかもしれません。
また、刑事責任の追及とは別に、遺族から損害賠償などを求めた民事訴訟を起こされてしまうおそれもあります。いずれにしても個人による対応は難しいので、弁護士のサポートは欠かせないでしょう。
死者への侮辱・名誉毀損に関するトラブルの解決は、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスにおまかせください。刑事事件・民事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決に向けて全力でサポートします。
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