ロマンス詐欺で逮捕されたらどうなる? 量刑や逮捕後の流れについて
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令和4年、立川市の小学校に通う児童が共同で制作した詐欺被害防止のオリジナルアニメがYouTubeの公式チャンネルで配信されました。詐欺の被害に遭いそうな人への注意喚起だけでなく、周囲の人に「大切な人を守る」という意識をもってもらいたいというコンセプトで制作・公開されており、詐欺被害の抑止への効果が期待されています。
詐欺の被害に遭っている人自身は、まさか自分がだまされているとは気づいていません。オレオレ詐欺などは被害者に焦りを与えてお金を振り込ませますが「ロマンス詐欺」では被害者を焦らすのではなく有頂天にさせる手口で、被害の発覚が遅いという特徴があります。
被害額が大きくなりやすく、手を染めてしまうと厳しい刑罰が科せられる危険な手口だといえるでしょう。本コラムでは「ロマンス詐欺」で問われる罪や刑罰、実際の裁判例、逮捕後の流れや処分の傾向などを解説します。
1、ロマンス詐欺(国際ロマンス詐欺)とは?
「ロマンス詐欺」とは、別名「国際ロマンス詐欺」とも呼ばれています。外国人を装い、おもにSNSを悪用して被害者にコンタクトを取って、恋愛感情や親近感を抱かせたうえでお金をだまし取る手口です。
外国籍の軍人や医師、資産家などと偽るケースが多く、一般的な日本人とのやり取りでは味わえない、まるで物語のなかで描かれる恋愛のように情熱的な求愛を受けることから「ロマンス詐欺」と呼ばれるようになりました。
結婚費用、渡航費用などでお金が必要だとだます、資産はあるが口座が凍結されているなど「いまはお金を自由に動かせないが、いずれ返せる」とだますなど、金銭要求の名目はさまざまです。
冷静になってみれば通常はあり得ないような嘘でも、恋愛の主人公になった気分でいる被害者は嘘を信じ込み、会ったこともなければ実在するかどうかも定かではない相手に大金を送ってしまいます。
2、実際にあったロマンス詐欺の裁判例
ロマンス詐欺は「摘発されにくい犯罪」のひとつです。
SNSなどを多用する手口なので容疑者の特定が難しいうえに、海外のインターネット事業者や金融機関を介しているケースも多く、被害の相談を受けても警察署単位では捜査を尽くせないという現実があります。
ただし、捜査に多大な手間と時間がかかるというだけで、わずかな手がかりからでも摘発されるケースが存在していることは無視できません。
令和4年3月には、多国籍の詐欺グループによるロマンス詐欺事件について、だまし取ったお金が入金されていたことを知りながら口座から出金した外国籍の男に、懲役3年6か月の実刑判決が言い渡されました。
このほかにも、令和4年5月には、外国人を装ってマッチングアプリで知り合った相手からお金をだまし取った日本人の男に逮捕状が発付され、国際手配されたという報道も流れています。
報道の時点ではアフリカ方面に潜伏しているとみられているようです。
ロマンス詐欺は「犯人や詐欺グループが海外にいる」と考えられているからこそ捜査が難しいという面がありました。
しかし、実際に判明した事件をみると、日本国内に拠点を置いていたり、日本人による犯行であったりするケースも多いようです。簡単なアルバイトだと偽られ、口座の管理や入出金、SNSやマッチングアプリでやり取りをして、ロマンス詐欺に関与してしまったケースもあるかもしれません。
3、ロマンス詐欺の容疑で逮捕された! 不起訴や執行猶予は期待できるのか?
他人に嘘をついてお金をだまし取る行為は、刑法第246条の「詐欺罪」にあたります。
また、ロマンス詐欺では、不正な送金分を銀行口座から引き出すことで同法235条の「窃盗罪」に問われたり、詐欺グループと関与して犯罪収益を受け取ることで「組織犯罪処罰法」の違反に問われたりもします。
ロマンス詐欺は、被害金額も大きくなりやすく、被害者の救済も容易ではない犯罪です。そのため、初犯でも厳しい処分を受ける危険が非常に高くなると考えられます。
もしロマンス詐欺の容疑で逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
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(1)逮捕後の流れ
警察に逮捕されると、その後は次の流れで刑事手続きを受けます。
1.逮捕 48時間以内の身柄拘束を受けて、警察による取り調べなどの捜査を受けます 2.送致 警察から検察官へと引き継がれる手続きです。ニュースなどでは「送検」とも呼ばれています。 3.勾留 24時間以内の身柄拘束と取調べを受けたうえで、検察官が裁判所に「勾留請求」するか「釈放」するかを決めます。勾留になると、10日間の身柄拘束を受けます。家族などと面会できるのは勾留が決定したあとです。 4.勾留延長 10日間の勾留では捜査が遂げられなかった場合、最大10日間、勾留が延長されます。 5.起訴 勾留が満期を迎える日までに、検察官が刑事裁判を提起する「起訴」か、起訴を見送る「不起訴」のいずれかを決定します。
起訴されると容疑者の立場は「被告人」となり、さらに被告人としての勾留が続きます。起訴されると「保釈」の請求が可能になりますが、必ず許可されるわけではありません。6.刑事裁判 起訴からおよそ1~2か月後に、初回の公判が開かれます。以後、おおむね2週間から1か月に一度のペースで公判が開かれ、裁判官による慎重な審理が続きます。 7.判決 刑事裁判の最終回の日に「判決」が言い渡されます。有罪・無罪の別と、有罪の場合は法律が定める範囲内で適切な「量刑」が言い渡され、期日までに不服申立てをしなかった場合は刑が確定します。 -
(2)詐欺罪の起訴率
罪を犯して刑罰を科せられるのは、刑事裁判によって有罪が言い渡されたときだけです。無罪が言い渡された場合や、刑事裁判が開かれなかった場合は、刑罰を科せられません。
とはいえ、現在のわが国の司法制度では、検察官が起訴に踏み切ると90%以上が有罪判決となってしまうため、裁判で無罪判決を得るのはきわめて困難です。
つまり、厳しい刑罰を避ける現実的な方法は「不起訴」を目指すことだといえます。
令和3年の検察統計年報によると、詐欺罪で起訴される割合は52.7%です。全事件の起訴率が33.2%、全刑法犯の平均は22.4%であるという現実に照らすと、詐欺罪がいかに「起訴されやすい犯罪」であるのかよくわかるでしょう。
なお、前述の割合は、ロマンス詐欺に限らずほかの手口の詐欺事件も含めた数字です。また、「ロマンス詐欺」には窃盗罪や組織犯罪処罰法違反など詐欺罪とは異なる罪名で処理されているものも存在します。そのため、上記の割合は、ロマンス詐欺と呼ばれる犯罪行為そのものの「起訴される割合」を示すものではありません。 -
(3)詐欺罪で執行猶予がつく割合
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」で、有罪判決が下された場合に言い渡される刑罰は懲役のみです。
ただし、懲役には一定期間に限って刑の執行を猶予し、新たに事件を起こさずその期間を満了できれば刑の言い渡しの効力が失われる「執行猶予」という制度があります。
裁判所が公開している令和2年度の司法統計によると、詐欺罪で有罪判決が下されて懲役の言い渡しを受けた人の数は2932人でした。
うち、刑の全部執行猶予を受けたのは1548人、一部執行猶予を受けたのは3人です。執行猶予がついた人の割合は52.8%なので、執行猶予がつくか、それとも実刑となって刑務所に収容されるのかは半々といったところでしょう。
執行猶予を得るためには、被告人にとって有利な事情を集めて裁判官に主張しなければなりません。
とくに、被害者への真摯(しんし)な謝罪とだまし取ったお金の返済・弁済が尽くされているかどうかは重要なポイントです。
特殊詐欺の受け子の事案ですが、福岡高裁令和2年2月26日判決では、被告人の役割が受け子である特殊詐欺事案の量刑傾向を見ると、被害額が四、五百万円以上の事案においては、犯行回数が一、二回程度にとどまっていたとしても、被害額のうち相当部分の被害弁償又はその見込みや示談の成立、被害者からの宥恕などの特に酌むべき事情がない限りは、実刑に処せられている傾向にある。
本件は、被害額が合計約1500万円もの多額に上る事案であるから、上記の量刑傾向に照らすと、刑の執行猶予を付することを相当とするような特に酌むべき事情がない限りは、被告人を実刑に処すべきである。と述べており、
① 相当部分の被害弁償又はその見込み
② 示談の成立や被害者からの宥恕
が量刑を考慮する上で重要な事情と示されています。
そのため、すでに被害者との示談が成立しているなら、裁判官が情状酌量を認めて執行猶予つきの判決を下す可能性が生じます。
4、厳しい処分の回避を望むなら弁護士に相談を
ロマンス詐欺は、数ある詐欺の手口のなかでも新しいものです。
高額の被害を引き起こしやすく、量刑判断も厳しい方向へと傾きやすいので、厳しい処分が予想されます。早期解決を望むなら、まずは弁護士に相談のうえでサポートを求めるのが賢明でしょう。
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(1)被害者との示談による解決が期待できる
詐欺事件を穏便に解決できるもっとも有効な方策は、被害者との示談交渉です。
ただし、ロマンス詐欺の被害者は、たとえ主犯ではなくても詐欺グループの一員に対して「許せない」という怒りを感じている人が多いため、加害者側からの示談交渉に応じてもらえないおそれがあります。また、被害者から許しをもらうためには、自分がもらった金額以上の金額での被害弁償を行う必要が高いです。被害者の怒りを和らげながら実のある交渉を実現するには、弁護士に対応をまかせたほうが安全です。 -
(2)厳しすぎる処分の軽減が期待できる
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役ですが、実刑になる場合であっても、必ず最大限の刑罰が科せられるわけではありません。
ロマンス詐欺は組織的に敢行されるケースが多いため、組織のなかでどのような立場であったのか、犯行における役割の重要度、報酬の有無、被害者との示談成立の有無などが大きく影響します。
過度に厳しい処分が下される事態を避けるには、弁護士のサポートが必須です。主犯格ではないことやアルバイトなどと称して犯罪であると知らずに関与してしまったこと、被害者に対する謝罪や弁済が尽くされていることなどを主張すれば、処分が軽減される可能性が高まります。
5、まとめ
ロマンス詐欺に関与してしまうと、刑法の詐欺罪などに問われます。逮捕されれば起訴されるおそれが高いうえに、刑事裁判では厳しい刑罰が科せられる危険も高いため、容疑をかけられたらすぐに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
ロマンス詐欺の解決はベリーベスト法律事務所 立川オフィスにおまかせください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、起訴や厳しい刑罰の回避の実現に向けて全力を尽くします。
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