【前編】「AirDrop(エアドロップ)痴漢」で問われる罪とは? 逮捕される可能性はあるの?

2019年05月09日
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【前編】「AirDrop(エアドロップ)痴漢」で問われる罪とは? 逮捕される可能性はあるの?

近年、兵庫県内を走る電車内において、男性が正面に座った面識のない女性に、iPhoneの画像送信機能「AirDrop」を利用して、わいせつな画像を送信したとして、同県の迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されたというニュースがありました。このような手口の行為は「AirDrop痴漢」や「AirDropテロ」とも呼ばれています(以下、これらの行為を「AirDrop痴漢」と呼びます。)。

では、そもそも、「AirDrop痴漢」とは何かをご存じでしょうか。また、もしあなたの家族が、「AirDrop痴漢」を疑われて逮捕されたら、どうすればよいでしょうか。

「AirDrop痴漢」で問われる可能性のある犯罪と刑罰、そして「AirDrop痴漢」で逮捕されたケースや、逮捕された後の手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所立川オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。

1、「AirDrop痴漢」ってなに?

「AirDrop痴漢」とは、iPhoneの画像送信機能「AirDrop」機能を利用して他人にわいせつな画像などを送る手口の犯罪行為のことをいいます。

「AirDrop」は、iPhoneにあらかじめインストールされている機能です。これによって、半径約9メートルの範囲であれば、メールアドレスなどの連絡先やパスワードなどを知らなくても画像データ等を送信することが可能です。

「AirDrop」は、誰でも簡単に画像データ等などのやり取りができる便利な機能です。しかし、知らない人から送られた画像データ等も受信できてしまうというデメリットがあります。受信を拒否するためには、iPhoneの「AirDrop」の設定を「受信しない」としておく必要があります。
「AirDrop」で送られた画像データ等を受信するかどうかは、iPhoneの持ち主が選択できます。しかし、送られた画像データ等のサムネイル(多数の画像や動画を一覧表示するために、本来のサイズより大幅に縮小された画像データのこと。)が表示されるため、iPhoneの持ち主の意思とは関係なく、送られてきた画像データが目に入ることになります。しかも、iPhoneの持ち主は、送られてきた画像データ等を受信するかどうかを選択するまで、画像データ等のサムネイルの表示を消すことができません。
 このように、いったんは画像が表示されてしまう機能を悪用して、わいせつな画像データ等を送りつける行為が「AirDrop痴漢」と呼ばれています。「AirDrop痴漢」は、他人に触れることなく不特定多数の人を相手に嫌がらせをするという、悪質な行為であるといえるでしょう。

2、「AirDrop痴漢」で問われる犯罪と刑罰は?

他人の体に直接触れるなどの痴漢行為やわいせつな行為をした場合、都道府県が制定する迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪が成立し、逮捕される可能性があります。
「AirDrop痴漢」は、痴漢と呼ばれてはいるものの、直接他人の身体に触れるわけではないので、強制わいせつ罪は成立しません。しかしながら、わいせつ電磁的記録送信頒布罪や都道府県が制定する迷惑防止条例に抵触するとして、逮捕される可能性があります。

  1. (1)わいせつ電磁的記録送信頒布罪(刑法第175条第1項後段)

    わいせつ電磁的記録送信頒布罪は、刑法第175条1項後段に規定されている犯罪です。

    刑法第175条第1項前段
    わいせつな文書、図面、電磁的記録に係る記録媒体その他のものを頒布し、又は公然と陳列した者は2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金、若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金も併科する。

    刑法第175条第1項後段
    電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

    刑法第175条第1項後段は、簡単にいうと、わいせつな画像データ等を送信することにより、不特定又は多数の人の記録媒体上に、送信した画像データ等を存在させることをいいます。ここでの不特定又は多数の人というのは、不特定かつ少数の場合も、特定かつ多数の場合も該当すると解されています。

    「AirDrop痴漢」が問題となったケースで、わいせつ電磁的記録送信頒布罪で逮捕されたというケースは見当たりません。しかしながら、過去には、女性器の3Dデータの保存先URLをメール送信し、アクセスした者に同データをダウンロードさせたことについて、わいせつ電磁的記録送信頒布罪に当たるとした裁判例があります。この裁判例のケースではメールを受信した人が保存先URLにアクセスしないと3Dデータを見ることができないにもかかわらず、女性器の3Dデータの保存先URLをメール送信した行為が同罪に当たるとしています。この裁判例と比較すれば、「AirDrop痴漢」の場合、わいせつ性が化体された画像データのサムネイルを相手の元で直接表示させているので、同罪に問われる可能性があるといえるでしょう。

  2. (2)迷惑防止条例違反

    わいせつな画像データを送る行為が各都道府県の迷惑防止条例違反に該当するとされたケースもあります(後編3参照)。

    仮に東京都内で「AirDrop痴漢」をした場合、下記の東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下「迷惑防止条例」といいます。)第5条第1項第3号に違反したとみなされ、処罰を受ける可能性があります。

    第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない
    (1)(略)
    (2)(略)
    (3)前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の場所又は乗物において、卑わいな言動をすること

    東京都迷惑防止条例第5条第1項第3号に違反した人は、「50万円以下の罰金又は勾留若しくは科料に処する」とされています(東京都迷惑防止条例第8条第1項第2号)。

  3. (3)その他の犯罪や損害賠償責任

    iPhoneの画像送信機能「AirDrop」は、連絡先などで相手を特定して画像データを送ることもできます。特定の相手に対して繰り返し、性的しゅう恥心を害する画像データを送信すれば、ストーカー規制法違反として罪を問われる可能性があります。

    また、わいせつ画像データ等を送られた相手が精神的苦痛を被ったとして、損害賠償を請求することもあり得るでしょう。

    後編では「AirDrop痴漢」を行った容疑で逮捕されたときや刑事手続きがどのような流れで進んでいくのかなどについて解説します。
    >後編はこちら

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