服役中の配偶者と離婚したい! 相手が刑務所にいる場合の方法や親権

2021年08月02日
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服役中の配偶者と離婚したい! 相手が刑務所にいる場合の方法や親権

もし配偶者が事件を起こして刑務所に収監されてしまったら、残された配偶者や子どもには生活にさまざまな支障が出てきます。子どもがいる場合は、学校生活への影響、そして将来の就職や結婚についても気になるところでしょう。

そうした支障を避けるため、離婚して名字を変え、知らない土地に引っ越してやり直したい、と思う方もいるはずです。では、配偶者が服役中である場合、どのように離婚の手続きを進めればよいのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、刑務所にいる配偶者と離婚することは可能?

配偶者が刑務所にいる場合でも、離婚すること自体は可能です。
ただし、そもそも離婚はひとりの意思で自由に行えるものではありません。
さらに、配偶者が服役中の場合には、訴訟提起が必要な場合もあるため注意が必要です。

まずは、通常の離婚の場合の流れについて整理したうえで、配偶者が刑務所にいるケースを確認していきましょう。

  1. (1)離婚の流れ

    離婚には、基本的に協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3種類があります。

    ① 協議離婚
    離婚の進め方としては、まずは話し合いによる離婚である「協議離婚」を求めることからスタートするのが基本です。協議離婚の場合、「離婚届」に夫婦それぞれが署名押印して市町村役場に提出し、受理されれば、法的に離婚が成立します。

    なお、夫婦間に子どもがいる場合は、親権者を決めなければなりません。

    ② 調停離婚
    協議離婚ができない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
    ただし、調停はあくまで裁判所における話し合いですので、相手が出頭しない場合や、相手が離婚に応じない場合には、離婚を成立させることはできません

    ③ 裁判離婚
    離婚調停でも離婚できなかった場合は、訴訟を提起する必要があります。離婚裁判は、当事者の意思にかかわらず、裁判官が法定離婚事由、つまり、正当な離婚原因があると判断すれば離婚が成立します

  2. (2)配偶者が刑務所にいる場合

    以上が一般的な離婚の流れであり、配偶者が服役中である場合でも、離婚するには上記の流れに沿って手続きを進める必要があります。配偶者がすぐに出所してくる場合には、出所してから協議離婚を求め、相手が離婚を拒むなら、離婚調停から裁判に進むことになります。

    他方、配偶者が出所するまで待てないという場合は、受刑者である配偶者を相手にして離婚手続きを行うことになります

    もっとも、配偶者の懲役刑が確定したとしても、どの刑務所に収監されているのかは、配偶者本人から手紙で連絡が来るまでわかりません。したがって、配偶者からの連絡を待って、居場所を特定する必要があります

    配偶者から手紙がなく、収監先がわからない場合、残念ながら刑務所に問い合わせるなどして収監先を調べることはできません。

    この場合は、刑期の長さや前科の回数などから収監先のあたりをつけ、複数の刑務所に配偶者宛ての手紙を出します。手紙を送付した刑務所に配偶者が収監されていない場合、「宛所に尋ねあたりません。」として、手紙が返送されてきます。手紙の返送がなかった刑務所に配偶者がいる可能性が高い、ということになります。

    配偶者が女性(妻)であれば、女子刑務所は全国に10か所と限られていますから、収監先のあたりをつけやすくなるでしょう。

    収監されている刑務所がわかったら、手紙か面会で離婚を求めましょう。離婚届を郵送して、記入してもらうように頼むことも可能です。

    相手が離婚届を記入して返送すれば、それを役所に提出することで協議離婚が成立します。しかし、配偶者が離婚を拒んだり、こちらからの連絡を無視する可能性は十分にありますその場合には、裁判所を利用して離婚を求めるしかありません

2、配偶者が離婚を拒否している場合は?

  1. (1)調停手続きは不要

    では、服役中の配偶者が離婚を拒んでいる場合、実際にはどのような手続きをとることになるのか、整理していきましょう。

    通常のケースでは、いきなり離婚裁判を提起することはできず、まずは家庭裁判所に離婚調停を申し立てる必要があります。これを調停前置主義といいます。

    しかし、配偶者が服役している場合は、いくら調停を開いても、調停の相手方となる配偶者裁判所に出頭できません。そのため、配偶者が服役中である場合には、その旨を訴状に記載すれば、調停手続きを経ることなく離婚訴訟を提起することができます

  2. (2)離婚訴訟の流れ

    民法770条各号で定められている法定離婚事由としては、①配偶者の不貞、②配偶者からの悪意の遺棄、③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神障害にかかり回復の見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときの5つに限られています。

    配偶者の服役は、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当すると判断される可能性が高いため、その点を主張しましょう。具体的には、配偶者の犯罪行為と服役により、それまで平穏だった夫婦関係が破綻し、今後もその修復が困難であると判断してもらう必要があります。

    配偶者の犯罪行為により家族の生活への悪影響が大きいものであるほど、裁判離婚が認められる可能性が高くなるでしょう。犯罪の悪質性、社会的影響、報道の有無、他方配偶者や子どもの社会生活に与えた影響、および刑期の長さなどについて主張する必要があります。

    また、犯罪の事実だけでなく、服役に至るまでの夫婦の関係も裁判官の判断に影響します。たとえば、以下のような事情がある場合、離婚が認められやすくなる可能性があります。

    • 配偶者からDVを受けていた
    • 配偶者が生活費を入れてくれなかった
    • もともと夫婦仲が悪く別居していた
    • 配偶者が不貞行為をしていた
    • 配偶者が前科を隠していた


    離婚裁判をするためには、配偶者の犯罪行為および服役により夫婦関係が破綻したこと、および上記に列挙した事情について、証拠を挙げながら詳細に事情が記載された訴状を作成し、裁判所に提出する必要があります

    訴状は書き方や書くべきことが細かく決まっており、不十分な点があれば補正が命じられるなど細かい手続きも必要になる可能性があります。迅速に離婚訴訟を進めるためには、訴状の作成・提出およびその後の手続きを弁護士に任せた方がよいでしょう

  3. (3)配偶者が収監されている場合の親権者

    親権者を定めるにあたっては、まず母親優先の原則が存在します。そのうえで、従来の子どもの監護は誰がしていたか、今後の監護環境、経済力、子どもの意向等の諸事情が考慮され、親権者が定められます。

    以前から妻が子どもの監護をしており、そのうえに夫が収監された場合、離婚裁判においては親権者が妻と認められる可能性が極めて高く、その後の親権者変更が認められる可能性も低いでしょう。

    ただし、出所してきた父親が面会交流(子どもと会うこと)を求めて来る可能性があります。これを拒否したい場合は、父親の犯罪の悪質性や、犯罪および服役が母子の生活に与えた悪影響、および父親と子どもを会わせることの危険性などを主張していく必要があります。突然元夫がこのような要求をしてきた場合、まずは弁護士に相談しましょう。

    出所した元夫に探し出されることに恐怖を感じる場合、住民票や戸籍の附票について閲覧制限をかける手続きを行いましょう。手続きは市役所で行うことができます。

    反対に、罪を犯した母親が収監された場合、母親優先の原則があったとしても、収監され物理的に子どもを監護できないのであれば、親権者は父親とならざるを得ないでしょう。

    しかし、子どもを諦められない母親は多いため、母親が出所して親権者変更の申し立てを行ってくる、あるいは面会交流を求めてくる可能性があります。

    これらの場合もやはり、母親の犯罪や刑務所への収監が子どもに与えた悪影響はもちろん、母親の服役中に父親が問題なく子どもの監護をしていたこと、母親と子どもを会わせることの危険性、母親の経済力や社会性の不足などを主張していく必要があります。

    突然このような申し立てがされてきた場合、まずは弁護士に相談しましょう

3、離婚の相談は弁護士へ

配偶者がすぐに離婚に応じてくれそうにない場合や、一日でも早く離婚したい場合には、速やかに弁護士に相談しましょう。服役中の配偶者と離婚したいとき、弁護士に相談するメリットは次のとおりです

  1. (1)確実に手続きを進められる

    配偶者が刑務所にいる場合の離婚の最大の問題点は、相手の意思がすぐに確認できない点です。相手が受刑中の場合は、連絡を取ること自体が難しく、相手から返事が来なければ協議離婚は困難です。前述のとおり、協議離婚が難しい場合は訴訟を提起する必要があります。

    裁判の場合、法的な主張と立証を適切に行わなければ、離婚が認められない可能性があります。手続きを迅速かつ的確に進め、離婚を成立させるためには弁護士に早く相談することが得策です

  2. (2)財産の整理についてアドバイスを得られる

    離婚にあたっては、財産分与や慰謝料などの経済的な問題も整理しなければなりません。夫婦間で名義を変更するべき財産もあります。また、生命保険や子どもの学資保険などが服役中の配偶者名義になっている場合、離婚後に親権者が請求できないなどの不利益を被ることもあります。

    配偶者と話し合って共同で手続きができれば問題ありませんが、配偶者が服役中であり、離婚の要求を無視する姿勢であれば協力は得られません。とはいえ、すべての財産について、自分でもれなく手続きを行うことは至難の業です。
    弁護士に相談することで、適切な財産分与や財産の調査方法、および手続きについてアドバイスを受けることができます

4、まとめ

配偶者が罪を犯しただけで家族の精神的負担は相当なものです。さらに実刑判決を受けて刑務所に収監されたとなると、残された家族の苦痛は計り知れません。特に子どもがいる場合には、できるだけ社会的悪影響を避けたいという気持ちから離婚を望むことも当然です。

服役中の配偶者との離婚については、通常の離婚と異なる流れを取ります。そして、協議が難航した場合や裁判となった場合、離婚にはある程度の時間がかかりますので、できるだけ早めに弁護士に相談しましょう。離婚問題にお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています