分別の利益は連帯保証や連帯債務にも適用される? 奨学金の支払いは?
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子どもが大学や専門学校に進学する際に、奨学金を借りる家庭もあると思います。その場合には、親や親戚の方が保証人や連帯保証人になって、奨学金を借りることが多いでしょう。
奨学金も借金の一種ですので、奨学金を借りた本人が主債務者として返済をしていくことになりますが、本人が返済をすることができなくなった場合には、保証人や連帯保証人に請求が行くことになります。
保証人が複数いる場合や、債務者が複数とされている場合に、その保証人間、債務者間の関係について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、多数人間の債務の関係
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(1)債務者が複数の場合
債務者が複数いる場合、その債務は次のように分類されます。
① 可分債務
可分債務とは、1つの分割可能な給付について複数の債務者が存在する場合であって、一定の割合でその給付が各債務者に分割されるものをいいます。
たとえば、大学生のA君とB君が事業をやろうと考えて、Cさんからトラック1台を50万円で購入した場合に、A君とB君とが25万円ずつ代金支払い債務を負担する場合などです。
各債務者は、分割された個別の債務を負担しています。そのため、上の例でいえば、AさんがCさんに20万円を支払った後は、Aさんは5万円をCさんに支払えば足り、Bさんが負担している25万円を支払う必要はありません。
② 不可分債務
不可分債務とは債務の目的物が性質上不可分な場合において、その給付について複数の債務者が存在する場合をいいます。
たとえば、大学生のA君とB君が共有していたトラック1台を40万円でDさんに売った場合にA君とB君がトラックをDさんに引き渡す債務などです。
各債務者は、債権者に対して同一の給付へと向けられた債務(上の例でいえばAとBが共有していたトラックを引き渡す義務です。)をそれぞれ負担しています。そして、債務者の1人が給付をすればすべての債務者の債務はなくなります。
③ 連帯債務
連帯債務とは、給付の目的物がその性質上可分である場合で、複数の債務者が存在する場合に、複数の債務者が各自、債権者に対して同一の給付へと向けられた債務を負担している場合をいいます。
たとえば、可分債務の例と同様にA君とB君がトラックを買った際、A君もB君もそれぞれCさんに50万円の支払い債務を負う場合などです。なお、CさんはA君とB君から合わせて50万円を受け取った時点で、それ以上はどちらにも請求することはできません。
A君とB君はCさんに対しては、双方50万円を支払わなければなりません(対外的関係)。しかし、A君B君の内部的関係では、双方が25万円ずつ負担することが公平です。そのような、連帯債務者相互間で内部的に各自の負担すべき割合のことを「負担部分」といいます。 -
(2)保証人と債務者の場合
保証人になるべき人物が、債務者の債務の履行を担保することを内容として、保証人・債権者間で書面によって合意することで、保証契約が成立します(民法446条)。この際に、下記の「連帯」の特約をすることで、連帯保証契約となります。
① 保証債務
保証債務は、主たる債務とは別個の独立した債務です。そのため、保証債務自体に主たる債務とは異なる遅延損害金の利率を設定することや、保証債務にさらに保証を設定することもできます。そして、主たる債務の履行を担保するものですので、主たる債務が有効に存続することを前提としており(付従性)、主たる債務の債権者が、債権譲渡などの理由で変更した場合は、保証債務の債権者も変更します(随伴性)。
また、保証債務は、主たる債務の履行がない場合に、補充的に、履行する義務を負うものですので、まず主たる債務者に催告することを要請する権利や主たる債務者に執行可能な資産がある場合にはその資産から取り立てることを要請する権利があります(補充性、民法452条、453条)。
② 連帯保証債務
通常の保証契約の際に、主たる債務者と連帯した債務を負担することを合意することで、連帯保証契約となります。
2、債務者間、債務者・保証人間、保証人間の関係
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(1)債務者間の求償関係
可分債務における債務者間では、そもそも負担部分と債務額が一致しますので、他の債務者に求償するという関係にありません。
不可分債務における債務者間では、下記の連帯債務と同様の関係になります(民法430条、442条等)。
連帯債務における債務者間では、民法442条によって、他の連帯債務者に対して、各自の負担部分について求償をすることができます。そして、連帯保証人の場合とは異なり、自己の負担部分を超えて返済していなくても、負担部分の割合に応じて他の連帯債務者に対して求償することができるという点がポイントです。
たとえば、主債務者Aが300万円の債務を負っており、BおよびCが連帯債務者であった場合には、ABCの負担割合は、それぞれ3分の1ずつとなります。そのため、Bが30万円を返済した場合には、AおよびCに対してそれぞれの負担割合である3分の1に相当する金額である10万円ずつの求償をすることができます。 -
(2)債務者・保証人間の求償関係
保証人が債権者に対して主債務者の借金を返済した場合には、返済をした保証人は主債務者に対して求償権を取得することになります(民法459条、462条)。
たとえば、保証人が主債務者に代わって100万円を返済した場合には、保証人は主債務者に対して求償権を行使することによって返済をした100万円の請求をすることができます。 -
(3)保証人間の求償関係
同一の債務について複数の保証人がいる場合を共同保証といいます。
① 連帯の特約のない保証人間
複数の保証人がいる場合には、それぞれ個別に保証契約を結んだとしても、各保証人は、主たる債務の額を保証人の頭数で割った金額についてのみ保証債務を負担します(法456条、427条)。
たとえば、主債務者Cが100万円の借金を負っており、保証人A、Bがいたとします。
Cが借金を返済することができなくなった場合には、債権者は、保証人A、Bに対して、借金の返済を請求してきます。このケースでは、保証人の頭数で割った金額は50万円ですから、債権者Cは保証人Aに対して50万円を、保証人Bに対して50万円を請求することができます。AおよびBは、各々50万円ずつCに支払えば足ります。
このような共同保証において認められている保証人の返済額の制限を「分別の利益」といいます。
そして、負担部分を超える額を支払った保証人は、その超過額についてだけ、他の共同保証人に求償することができます(民法465条2項、462条)。
なお、支払った当時に他の保証人が「利益を受けた限度」に求償権の範囲が制限されます(465条2項、462条、459条1項)。
② 連帯保証人間
主たる債務が不可分である場合および、共同保証人間で各人が全額を弁済するとの特約がある場合(465条1項)に分別の利益を失います。共同保証人間で各自が全額を弁済するとの特約がある場合のことを「保証連帯」といい、連帯保証の合意はこの「保証連帯」の合意を含むと解されています。
各連帯保証人は、債権者に対しては、全額の支払い義務を負いますが、保証人間の内部的な負担部分は、主たる債務の額を保証人の頭数で割った額となります。
上記の例でいえば、CはA、Bのどちらに対しても100万円を請求できます。AがCに100万円を支払った場合は、Aは主たる債務者に求償する(民法459条、459条の2、462条)ことはもちろんのこと、他の保証人Bに対して負担部分を超えた額の50万円を求償することができます(民法465条1項)。
3、分別利益の主張の要否 奨学金にまつわる裁判例
令和3年5月31日に札幌地方裁判所において、奨学金の保証人の返済に関して注目すべき判決が言い渡されました。
日本学生支援機構から奨学金を借りる際には、人的担保として保証人と連帯保証人が1人ずつ必要になります。原告は、学生が奨学金を借りる際に保証人になった方です。主債務者が何らかの事情で支払いができなくなったことから、日本学生支援機構は、保証人に対して、全額の返済を求め、それに応じていました。しかし、保証人には分別の利益があることから、保証人の返済義務は半額しかないとして、負担部分を超える支払いについては、不当利得であるとして返還を求めた裁判です。
被告となった日本学生支援機構は、保証人は自ら分別の利益を主張しなければ、その適用を受けることができないと反論をしました。裁判所は、保証人による分別の利益の主張は必要なく、負担部分を超える弁済は無効であると判断して、原告の不当利得の返還請求を認めました。
この判例について、①負担部分を超える支払いをした保証人について「保証人が、分別の利益を有していることを知らずに自己の負担を超える部分を自己の保証債務と誤信して債権者に対して弁済した場合には、この超過部分に対する弁済は…非債弁済に他ならない。そのため保証人による自己の負担を超える部分に対する弁済は無効」と判示して、共同保証人や債務者の対する求償ではなく、債権者に対して請求することを認めています。
そして、②分別の利益は、利益を行使することを主張する必要はなく、当然に適用されることを認めています。
この判決に対しては、被告から控訴がありましたので、まだ確定したものではありませんが、今後の動向が注目される裁判の1つです。
4、分別の利益についてのお悩みは弁護士へ相談
保証債務や分別の利益についてお悩みの方は弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)分別の利益や求償権についてアドバイスを得られる
日本学生支援機構という公的機関であっても、上記判決のように民法の解釈を誤って、分別の利益のある保証人に対して全額の債務の弁済を求めています。このことからもわかるように、法律の解釈や適用については非常に複雑であり、法律の専門家でなければ正確に判断することが難しい分野です。
すでに全額の返済をしてしまった保証人のなかには、分別の利益を主張することによって、負担部分を超えた部分について返還を求めることができる場合もあります。また、主債務者や他の保証人に対して求償権を行使することができる場合もあります。
保証人としてどのような対応が可能かどうかについては、一度専門家である弁護士に相談をして判断してみるとよいでしょう。不当利得の返還請求や求償権の行使が可能なケースでは、弁護士に依頼して行うことで、交渉から回収までの一連の手続きをすべて任せることができます。 -
(2)支払いが困難なときは債務整理を
主債務者がきちんと支払ってくれると思って保証人になったものの、何らかの事情によって主債務者の支払いが困難になってしまった場合には、保証人が借金の返済をしていかなければなりません。借金額が少ない場合や、保証人に十分な資料がある場合は問題ありませんが、突然、保証債務の弁済を求められたとしても返済するだけの資力がないということもあります。
そのような場合には、保証人自身も債務整理をする必要があるかもしれません。債務整理といっても、任意整理、自己破産、個人再生などさまざまな方法があり、どのような方法が最適であるかは、負債の状況や資産の状況によって異なってきます。
最適な債務整理の方法を選択することによって、負担を大幅に軽減することができる場合がありますので、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
保証人、連帯保証人は自らが直接借金をしているわけではないにもかかわらず、主債務者が返済できない場合には、債権者から返済を求められる立場にあります。そのため、保証人や連帯保証人になる場合には、将来のリスクを踏まえて慎重に判断するようにしましょう。
すでに保証人などになっている方で、具体的なトラブルに巻き込まれているという場合には、早めに弁護士に相談をすることによって、解決可能なケースもあります。保証や分別の利益についてお悩みの方はベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでお気軽にご相談ください。
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