新型コロナの影響で内定を取り消された! 会社に損害賠償請求できる?
- その他
- 内定取り消し
- 損害賠償
令和2年春からの新型コロナウイルス感染拡大により、市民は外出を控えるようになりました。そのため、サービス業を中心に、経営が厳しくなる企業が増えました。そして、いったんは採用通知を受け取っていたのにもかかわらず、内定を取り消される学生が続出しています。
東京都のように、内定を取り消された新卒者を非常勤職員として雇用するなど、支援を行っている自治体もあります。しかし、就労先が見つからない新卒者がいまだ大勢残されています。
内定を取り消されたら、今までの努力が水の泡になってしまいます。このとき、一方的に内定を取り消した会社に対して、損害賠償や慰謝料を請求できるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、内定をもらったら会社との関係はどうなる?
就職活動では、最終選考に合格すると会社から「内定」もしくは「内々定」をもらいますが、内定をもらった段階では本採用が決定したわけではありません。内定をもらうと、内定者と会社との関係はどうなるのでしょうか。
「内定」とはどのような状態かを理解したうえで、「内定取り消し」の意味を確認していきましょう。
-
(1)そもそも内定とは
内定とは、具体的な事情によって変わることもありますが、一般的には、「効力発生または就労の始期付・解約権留保付の労働契約」と考えられています。
学生は、内定を得ても即日勤務することはできず、学校を卒業した後の4月1日から勤務するのが一般的です。これが効力発生の始期付と言われる理由です。
また、4月1日までに事情が変われば、会社・内定者ともに労働契約を解約できる権利が留保されていると考えられています。 -
(2)内定取り消しは解雇と同じ
内定が労働契約のひとつの形である以上、内定取り消しは会社からの労働契約の一方的な解約にあたり、解雇と同様の意味を持ちます。
したがって、内定取り消しにも、解雇を制限する「解雇権濫用の法理」というルールが適用されます。
解雇権濫用の法理とは、「使用者による従業員の解雇が、客観的に合理性を欠き、かつ、社会的通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用にあたり、無効である」という考え方です。
このルールを内定取り消しに適用すれば、内定取り消しは、客観的な合理性や社会通念上の相当性認められない限り、解雇権の濫用にあたり、無効となります。
そのため、内定といえども、会社は簡単に取り消すことはできません。 -
(3)内定と内々定の違い
求職者が内定に先立って、「内々定」をもらうことも珍しくありません。内々定を出す会社では、まず内々定を求職者に通知し、その後の内定式や内定通知を経て、正式に「内定」となります。
「内々定は、内定とほぼ同じ」と思っている方も多いかもしれませんが、実は内定と内々定の意味は少し異なります。
内々定とは、採用することがおおかた決まっているものの、「労働契約を結んでもよい」という意思表示ではありません。そのため、労働契約はまだ成立していない状態です。労働契約が成立していない以上、内々定を取り消されたとしても、労働契約の解約にはあたりません。そのため、内々定の取り消しには、解雇権濫用法理が適用されません。
ただし、内々定を得たことで、求職者にとって「入社できる」と期待が高まっていたと認められる特段の事情がある場合は、内々定の取り消しにより期待権を不当に侵害されたとして、慰謝料などを請求することが可能です。
2、内定取り消しはどのようなときに認められるのか
上記のとおり、内定取り消しは解雇と同様の意味をもつので、使用者は原則として内定取り消しができません。しかし、客観的合理性と社会通念上の相当性が認められ、例外的に内定取り消しが認められるケースもあります。
ここでは、内定取り消しが認められるケース・認められないケースを比較するとともに、内定取り消しの効力を裁判で争われた事例について見ていきましょう。
-
(1)内定取り消しが認められるケースとは
内定取り消しが認められる例として以下のようなケースがあります。
<内定者側の理由>- 内定者が単位不足により、学校を卒業できなかった場合
- 内定者が健康診断の結果、勤務できる健康状態にないと判明した場合
- 内定者が履歴書や職務経歴書に虚偽の学歴や経歴を書いていた場合
- 内定者が罪を犯すなど、重大なトラブルを起こした場合
<会社側の理由>- 会社の経営が著しく困難になり、リストラが必須となった場合
-
(2)内定取り消しが認められないケースとは
客観的に合理性を欠き、社会通念上相当ではない内定取り消しは無効となります。内具体的には、以下のような場合です。
<内定者側の理由>- 内定者が社風に合わない性格だと判断された場合
- 内定者がクラブや風俗店でのアルバイト経験があることがわかった場合
- 内定者が入社前の研修を受けなかった場合 など
<会社側の理由>- 会社の経営が悪化したものの、軽微である場合
- 後から面接した求職者を採用したくなった場合 など
-
(3)内定取り消しが争点となった事例
次に、内定取り消しを受けた労働者側が起こした裁判の事例を見ていきましょう。
事例①大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日)
Y社から内定の通知を受けたXは、他の企業への応募を辞退していました。ところが、Y社は、入社2か月前に、「グルーミーな印象がぬぐえない」として、Xの内定を取り消しました。そこで、Xは、Y社に対し、従業員としての地位の確認を求めて訴えを提起しました。
最高裁は、まず、内定を始期付解約権留保付労働契約であると判示しました。
そして、「グルーミーな印象がぬぐえない」といった会社都合の理由での内定取り消しを無効としました。
本判決は、内定取り消しに解雇権濫用法理を適用した点で重要な意義があります。
事例②インフォミックス事件(東京地決平成9年10月31日)
A社従業員のXは、Y社からスカウトされ、内定をもらったため、A社に退職届を提出しました。ところが、Y社が経営悪化を理由にXの内定を取り消しました。そこで、XがY社に対し、地位保全の仮処分命令を申し立てた事件です。
東京地裁は、Xに対する内定取り消しは、社会通念上相当といえず、無効であると判断しました。本判決のポイントは以下のとおりです。- 整理解雇がやむを得ず、内定取り消しの客観的合理性は認められる
- Xに対する説明不足やXが前の会社に退職届を提出していることに照らすと、Xが被る不利益が大きく、内定取り消しの社会通念上の相当性が認められない
事例③コーセーアールイー事件(福岡高判平成23年3月10日)
Y社がリーマンショックで業績不振に陥ったのを理由に内々定を取り消したことが債務不履行と不法行為にあたるとして、内々定を得ていた大学生Xが損害賠償を請求した事件です。
福岡高裁は、内々定は、企業側の確定的な採用の意思表示ではないので、始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえないとしました。
一方で、内々定の取り消しに至った経緯についての説明が不十分だったこと、内定通知予定日の直前に内々定を取り消したことが、信義則に反し不誠実と判断し、Y社に55万円をXへ支払うよう命じました。
3、内定取り消しへの法的な対処法
せっかく頑張って勝ち取った内定を取り消されたら、ショックのあまり茫然としてしまうかもしれません。しかし、卒業が迫っている学生の方や、すでに転職のために退職届を出してしまった方は、すぐにでも対処法を考える必要があります。
内定を取り消されたら、どうすればよいのでしょうか。
-
(1)損害賠償や慰謝料を請求する
まずは、内定取り消されたことに対する損害賠償や慰謝料を請求する方法があります。
新たな就職活動に費用がかかったこと、就職先が見つからずに留年せざるを得なくなったことなどを理由に損害賠償請求をすることが可能です。
また、内定先の企業で仕事に就けるという期待を害されたことによる精神的苦痛を理由に慰謝料を請求することもできます。 -
(2)逸失利益を請求する
次に、企業側に逸失利益を請求することも考えられます。
ここでいう逸失利益とは、内定を取り消されていなければ受け取っていたはずの給与(バックペイ)のことです。
不当に内定取り消しをされた場合は、実際にその会社で働けなくても、入社日以降支払われるはずであった賃金を請求し、受け取ることができます。先述の事例②でも、裁判所は会社側に対し、賃金仮払いの仮処分決定を下しています。 -
(3)従業員としての地位確認訴訟を起こす
どうしてもその会社で働きたい場合は、従業員としての地位確認訴訟を提起して内定取り消しの効力を否定する方法があります。
裁判所に内定取り消しが合理的なものでないと認められれば、内定を取り消された会社の従業員としての地位が回復するので、その会社で働くことが可能です。
ただ、会社に対して訴訟を提起しているため、「地位確認訴訟で勝訴したとしても、働きにくい」と感じるというデメリットがあります。
他方で、地位確認訴訟は、先述のバックペイを得るために必要な訴訟でもあります。地位確認訴訟によって自身がその会社の従業員であることを確認し、そのうえで、「従業員であるからには、給料が支払われていたはずだ」としてバックペイを求めることになるのです。
なお、従業員としての地位確認訴訟を提起する以上、「自分はその会社の従業員だ」と主張することになります。そのため、地位確認訴訟を提起しながら、別の会社に正社員として勤めることは、矛盾挙動となり、望ましくありません。
とはいえ、生活費確保のために、働かざるを得ない場合もあるでしょう。他の会社に正社員として勤めていることから直ちに、地位が否定されるとは限りませんが、可能であればアルバイトやパートなどの非正規社員として勤めた方が影響は抑えられると考えられます。
ただ、他の会社で得た収入は、バックペイから控除されることが多いため、注意が必要です。
4、内定取り消しを争うための準備とは
内定取り消しを巡って企業と争うときは、念入りな準備をしなければなりません。どんな準備が必要かわからないときは、弁護士に相談してアドバイスをもらうとよいでしょう。
-
(1)内定をもらった証拠をそろえる
内定取り消しについて争うためには、まず、内定をもらった証拠をそろえます。証拠がなければ、会社側に「そもそも内定なんか出していない」としらを切られる可能性があるからです。
内定通知書などの書面があればベストですが、メールや電話の録音などでも構いません。客観的に見て、「内定をもらっていた」と判断できるような証拠を集めておきましょう。 -
(2)内定取り消しが違法であると主張する
内定取り消しと争うときには、「内定取り消しをされた会社なんて入りたくない」と思うかもしれません。しかし、だからといって、自分から内定を辞退すると、争うことができなくなってしまいます。
きちんと内定取り消しが違法であると主張することで、慰謝料や逸失利益を獲得できる可能性が高くなります。くれぐれも自分から内定取り消しを認めるようなそぶりを見せないようにしましょう。 -
(3)弁護士に相談する
内定を取り消されたら、泣き寝入りせずに、労働問題の経験が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士に相談すれば、内定取り消しにどのような法的な問題があるか、会社に対してどのような対応をすべきかについてアドバイスをもらえます。
仮処分の申し立てや訴訟の提起をするときには、裁判所での手続きや期日への出頭なども一任できるので、とても心強い味方となってもらえるでしょう。
5、まとめ
今後も新型コロナウイルスの影響で、内定取り消しに至る企業は現れると考えられます。
内定取り消しが違法であれば、会社に対して損害賠償や地位確認を求めるなど、さまざま法的手段を執ることが可能です。
内定を取り消されてお困りの方は、お気軽に、ベリーベスト法律事務 立川オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています