【労働者向け】証拠保全とは? 手続きの概要や手順について

2022年10月13日
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【労働者向け】証拠保全とは? 手続きの概要や手順について

労働問題は、解雇、未払賃金、退職金、残業代、セクハラ・パワハラなど多岐にわたります。

また、これを解決するための手続も、弁護士を通じた交渉をはじめ、裁判所による労働紛争解決手続きである、労働審判、通常の民事訴訟、民事保全、強制執行、少額訴訟、民事調停など、さまざまです。

いずれの手続を選択する場合でも、労働問題の証拠が必要となりますが、すでに退職していたり、証拠を求めても雇い主が拒否したりするなど、証拠集めにおいて労働者側が不利な状況になるケースが少なくありません。また、最悪の場合、証拠を改ざんされたり、破棄されたりしてしまうリスクもあるでしょう。

これらを解決するために、訴訟を提起する前に証拠を確保しておく「証拠保全」という手続が用意されています。本コラムでは、そもそも証拠保全とは何か、証拠保全を利用するための手続・流れなどを、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。

1、そもそも証拠保全とは

証拠保全とは、訴訟までに証拠を処分や改ざんされてしまう恐れがある場合に、その証拠をあらかじめ調べておき、その結果を保全するための手続をいいます(民事訴訟法234条以下)。

たとえば、医療事故が起きて訴訟を提起しようと考えている場合に、訴訟を提起する前に病院へ行って、カルテ・検査結果・レントゲン写真などの内容を記録化する手続がこれに該当します。

証拠保全は、医療事故に限らず、労働問題や民事訴訟全般においても利用することができますまた、訴訟を提起してから証拠保全を利用することも可能です

2、証拠保全が必要となる場面

証拠保全は、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(民事訴訟法234条)がある場合に行うことができます。

具体的には、訴訟を待っていると、証拠書類がなくなる、隠される、書き換えられる、といったことで調査ができなくなるおそれがある場合に、証拠保全を利用することができます。

これを、「未払残業代の請求」という例で考えてみましょう。裁判を介して未払い残業代請求をするのであれば、労働者側が、労働時間(始業時刻・終業時刻・休憩時間)を主張立証する必要があります

そのため、未払い残業代の代表的な証拠としては、次のようなものが考えられます。

  • タイムカード、労務管理システムのログ
  • ビルの入退館記録、防犯システムのログ
  • パソコンのログイン・ログオフ時刻
  • メールやグループウェアの送信記録
  • タコグラフ・デジタコ(運転記録計)
  • 店舗の開店、閉店時間
  • 勤務シフト表
  • 業務日報・週報
  • 従業員による業務に関するメモ


上記の多くが雇い主側の手元にあり、雇い主側との関係が訴訟をするまでに悪化してしまうと、情報収集が困難になる可能性は高いです。

労働者が証拠集めで不当に不利な状況にならないためにも、証拠保全は重要な手続きと考えられます。

3、証拠保全手続の手順・流れ

  1. (1)証拠保全の流れ

    証拠保全の流れは、おおむね次のとおりです。

    まず、労働者が証拠保全の申し立てを行い、裁判官との間で面接を行います。面接の場で、裁判官から不足している点や疑問点などを指摘されれば、労働者が補充する必要があります。具体的には証拠保全の対象となっている物件の確認や特定できるかどうかの確認されることになります。

    その後、裁判官によって、申し立てを認めるか否かの決定がなされます。証拠保全には迅速さが要求されますし、雇い主側に気付かれれば、証拠が改ざん・破棄されるリスクがあるため、申し立てに要件があるかどうかは、労働者の言い分と労働者の提出する資料のみで判断されます。

    その結果、裁判官が証拠保全をする必要があると判断した場合には、実際に証拠があるとされる現場に行き、対象となる証拠を調べることになります(改ざんのおそれがあることを理由として証拠保全を行う場合には、現地に赴く1時間前まで雇い主側に事前の通知を行わないなど、証拠保全の意義が失われないよう厳格に運用されています)。

    証拠調べは、対象となる証拠(書類やパソコン上の記録が多いです)の有無や数を確認したうえで、持ち運びできるモバイルプリンタやデジタルカメラなどを利用して、その内容を書面化できるように保存するという形で行われます。

    現地での証拠調べが終わると、裁判所の書記官が、証拠調べの結果を書面化します。
    以上が、証拠保全の一連の流れです。

  2. (2)証拠保全を利用するための手順

    証拠保全を利用するに当たって労働者にとって必要な手順で重要なものは、申し立てと裁判官との面接です。

    まず、申し立ては、書面で行わなければならず、この書面には、保全の対象とする証拠を具体的に記載しなければなりません。

    保全の対象とする証拠の記載に不足があれば、証拠保全そのものは認められたとしても、記載していない証拠は保全の対象となりませんので、慎重に記載する必要があります

    また、裁判官との面接も重要です。面接は、裁判官の指摘に回答するという場であるほか、証拠保全の日程、待ち合わせ場所、同行者の確認など、当日の流れについて事前に打ち合わせする場でもあります。

    労働者の勤続年数が長いなど確保すべき証拠が多いと見込まれる場合には、1日では現地での証拠調べが終わらないことも少なくありません。このような場合に備えて、面接の場で、なるべく早い時間から現地での証拠調べを開始してもらうように要望したり、証拠調べの優先順位を伝えたりしておかなければなりません。

    以上が、証拠保全を利用するための手順の中でも特に重要なものですが、これ以外にも、現地での証拠調べに同行させるカメラマンの選定や、証拠保全の費用(申し立ての手数料、証人や鑑定人の旅費・日当・宿泊料など)の裁判所への予納などの手順も必要となります。

    また、申し立ては、証拠を所持する者の居所か、確保すべき証拠の所在地を管轄する地方裁判所か簡易裁判所宛てに行う必要があります。

4、労働トラブルにおける証拠保全手続きなら弁護士にご相談を

ここまで、未払残業代請求を念頭に証拠保全手続を説明しましたが、未払残業代を請求するためには、事前の調査も重要です。

たとえば、研究開発業・建設業・医師などには残業時間の上限が適用されない、管理監督者などにはそもそも法定労働時間の規制がない、フレックスタイム制や変形労働時間制で働く者には法定労働時間の考え方が柔軟化されるなど、さまざまな法規制がありますので、個々の労働者に適用される法律を正確に見極めなければなりません。

未払残業代以外にも、冒頭でもお伝えしたように、労働問題は多岐にわたり、それぞれに応じた事前の調査が必要ですので、労働者自身で解決するには負担が大きく、適切な解決を導くためには、労働問題の解決実績のある弁護士への相談が望ましいです

証拠保全の場においても、申立書に記載すべき証拠、裁判官との面接で伝えるべき事項、現地での証拠調当日にチェックすべきポイントなど、経験を踏まえて対応すべき重要な局面が複数存在します。

どうしても、雇い主側に比べて労働者は弱い立場に置かれがちですので、労働問題でお困りの場合には、労働問題の解決実績がある弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

労働問題を解決しようとする場合、労働者が証拠として用いたい資料が雇い主側の手元にあり、そもそも労働者側が不利な状況からスタートせざるを得ないことが少なくありません。

このような場合に、雇い主側が証拠を改ざんしたりすることを防止し、労働者にとって有利な証拠をあらかじめ確保するための手続が証拠保全ですが、証拠保全の手続には専門的な知識が要求されます。また、労働問題を解決するに当たっては、事前の調査にも法的な知識が必要となり、労働者自身で適切な解決に導くことは、負担も大きく困難であるともいえます。

労働問題でお困りの場合は、まずは労働問題に実績のあるベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士にご相談ください。状況を丁寧にヒアリングし、解決に向けてサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています