会社に有給を勝手に使われる! 行為の違法性と労働者ができる対処法

2024年06月17日
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会社に有給を勝手に使われる! 行為の違法性と労働者ができる対処法

厚生労働省が公表している令和5年就労条件総合調査の概況によると、令和4年の1年間に労働者に付与された年次有給休暇は、1人平均17.6日であり、このうち労働者が取得した年次有給休暇の日数は10.9日で、年次有給休暇の取得率は62.1%でした。

有給休暇(以下「有給」)は、労働者の権利です。したがって、いつでも好きなときに取得できるのが原則です。しかし、会社側が勝手に有給を取得する日を決めたり、労働者が休むことになった日を使用者(会社)が勝手に有給扱いにすることがあります。このような扱いは違法になるのでしょうか。本コラムでは、使用者が労働者の有給を勝手に使うことの問題点について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。


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1、有給を勝手に使われてしまうケースとは?

使用者によって有給を勝手に使われるケースとしては、以下のケースが挙げられます。

  1. (1)体調不良や諸事情で欠勤をしたケース

    第一に、労働者の事情によって欠勤した際、使用者の好意で勝手に有給が使われるケースがあります。

    たとえば、労働者が病気や体調不良などで欠勤をしたり、家庭の事情によって欠勤をしたりすることがあります。ノーワークノーペイの原則により、欠勤をした日については、賃金が支払われることはありませんので、欠勤日の給料が減ることになります。

    しかし、給料日に給料明細を確認すると、欠勤日の給料が控除されておらず、有給休暇の日数が減らされている場合があります。

  2. (2)閑散期の人数調整をするケース

    つぎに、休業手当の支払いではなく、有給休暇扱いにすることで、勝手に有給休暇が使われるようなケースです。

    使用者の事業内容によっては、繁忙期と閑散期があり、閑散期には人数調整のために労働者に休んでもらうことがあります。

    このような休日は、使用者都合の休日になりますので、労働日の労働義務が消滅しますが、ノーワークノーペイの原則は適用されず、休業手当などが支払われることになります。このとき、休業手当でなく、有給扱いにされてしまう場合があります。

  3. (3)オフィスの工事で使用者(会社)が休みになるケース

    オフィスの改修工事や引っ越しなどで終日立ち入りができない場合には、その日については休日にせざるを得ません。そのような場合も上記と同様に使用者都合による休日になりますので、休日手当などの支払いが必要になります。

    このケースでも、休日手当ではなく有給休暇扱いにしようとする場合があり、勝手に有給が使われることがあります。

2、使用者(会社)が勝手に有給を使うのは違法!

使用者が勝手に有給を使う行為は違法です。以下では、年次有給休暇の概要と違法になる理由について説明します。

  1. (1)年次有給休暇とは

    年次有給休暇とは、一定期間勤務を続けた労働者に対して付与される休暇であり、仕事を休んでも給料が支払われるという特徴があります。

    仕事を休んだ日には給料が支払われることはありませんが、それでは冠婚葬祭や通院など、休みが必要な場合でも、給料の減少をおそれて休まない労働者も出てきてしまいます。

    休日は、心身の疲労を回復や、家族との時間を過ごすために重要なものです給料が減るという制約なく自由に休日をとることができるのが望ましいといえます

    そこで、労働基準法では、労働者に対して、年次有給休暇を与え、有給で休むことができる権利を保障しているのです。

  2. (2)勝手に有給を使うのが違法となる理由

    年次有給休暇は、労働基準法によって保障されている労働者の権利です。有給休暇を取得するかどうか、取得するとしていつにするのかなどは労働者が自由に決めることができます。また、使用者が、有給休暇をどのような理由で取得するかを尋ねること自体は明確に違法とはいえませんが、労働者が理由を説明する必要はありません。

    このように有給休暇は自由に利用することができるのが原則です。そのため、使用者が有給休暇の取得を強制したり、使用者が勝手に有給取得日を指定したり、労働者の同意なく勝手に有給消化をしてしまうのは、労働者の有給休暇の権利を侵害することになり違法となります

3、使用者(会社)から有給を指定されることが違法ではないケース

使用者が勝手に有給を使うのは原則として違法となりますが、以下のようなケースでは、使用者による有給の指定が違法にはなりません。

  1. (1)有給休暇の計画的付与制度

    有給休暇の計画的付与制度とは、労働者に与えられた有給休暇のうち、5日を超える部分については、労使協定を締結することによって、使用者が計画的に休暇取得日をわりふることができる制度のことをいいます。

    たとえば、年次有給休暇の付与日数が15日の労働者に対しては10日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象にすることができます。

    有給休暇には、有給休暇が付与されたときから2年を経過すると時効によって消滅してしまいます。そこで計画的付与制度を設けることで、使用者が労働者の有給休暇取得をコントロールし、適切な休息を促すことが期待されています。

  2. (2)有給休暇の時季変更権

    労働者から有給休暇の取得の希望があった場合には、使用者は、労働者が希望する日に有給休暇を取得させなければならないのが原則です。

    しかし、労働者から希望のあった日に有給休暇を取得させることによって、事業の正常な運営を妨げるおそれがあるという場合には、例外的に有給休暇を取得する日を使用者が変更することができます。

    事業の正常な運営を妨げるおそれがある場合とは、以下のようなケースをいいます。

    • 代替要員を確保することができないケース
    • 複数の労働者から同じ日に有給休暇取得の希望があったケース
    • 希望日に業務上必須の研修や訓練があったケース


    有給休暇の時季変更権は、あくまでの労働者が希望する有給休暇の取得日を変更することができるというものであり、有給休暇の取得を拒否することはできません

4、有給を勝手に使われたらどうすればいい?

使用者に有給を勝手に使われた場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)証拠集め

    有給休暇を勝手に使われた場合には、有給休暇の計画的付与制度などの例外的な場合にあたらない限り、原則として労働基準法に違反することになります。

    このような場合には、労働基準監督署や弁護士に相談をするなどの対応が考えられますが、その前提として、有給休暇を勝手に使われたという証拠を集めておく必要があります

    有給休暇を勝手に使われたという証拠としては、以下のものが挙げられます。

    • 給料明細
    • 休暇届、休暇申請書
    • 休日を申請したメール
  2. (2)労働基準監督署に相談

    労働基準監督署は、管轄内の事業所が労働関係法令を順守しているかどうかの監督を行っています。

    労働基準法に違反する事実がある場合には、事業所などに立ち入り、関係帳簿などを検査して、違法な労働がなされていないかどうかをチェックしてくれます。調査の結果、労働基準法に違反する事実が認められた場合には、事業主に対してその違反の是正を指導してくれます。

    有給を勝手に使われたという場合には、労働基準監督署に相談をすることによって、有給休暇に関する違法な取り扱いを是正してくれる可能性があります。

  3. (3)弁護士に相談

    有給休暇を勝手に使われたという場合には、弁護士に相談をすることも有効な手段となります。弁護士であれば、労働者の代理人として使用者と交渉をすることができますので、有給休暇に関する違法な取り扱いを止めるように求めていくことが可能です

    また、違法な有給休暇の取り扱いをしている使用者では、残業代なども適正な金額が支払われていないこともありますので、未払いの残業代請求についても弁護士が対応することができます。

    有給休暇などの労働問題は、専門的知識がなければ解決することが難しい問題ですので、ひとりで悩むのではなく、まずは、労働トラブルの解決実績が豊富な弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

有給休暇は、心身の疲労を回復するために労働者に与えられた重要な権利です。したがって、労働者は、有給休暇を自由に利用することができるのが原則となります。

万が一、本来休業手当が出る日であっても勝手に有給扱いとなっていたり、労働者が希望していないにもかかわらず、有給取得日を指定されるなど、会社側が勝手に有給休暇を消化しようとする行為は、労働基準法に違反することになる可能性が高いです。このような場合、残業手当も適切に支払われていないなどのケースは少なくありません。適切な賃金を受け取りたいとお考えであれば、弁護士に相談をしてください。具体的な対応についてアドバイスすることができます。

有給休暇を勝手に使われてお困りの方は、労働問題の実績が豊富なベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています