病気を理由とした降格は違法? 違法・無効になるケース
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2021年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は17万2047件でした。寄せられた相談内容は「いじめ・嫌がらせ」が9年間連続トップになっています。
従業員(社員)の病気を理由とする降格処分は、違法・無効となる可能性があります。もしご自身の病気を理由に、会社から不当な降格処分や減給を受けてしまったら、弁護士へ相談してみましょう。
今回は、病気を理由とした降格処分の可否や違法・無効となるケースに加え、仕事が原因で病気になった場合の対処法などをベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
出典:「個別労働紛争の解決制度等に関する令和3年度の施行状況について」(東京労働局)
1、病気を理由に従業員を降格させるのは違法?
病気を理由とした従業員の降格は、違法となる可能性があります。
降格の適法性を判断する際には、降格処分そのものが適法であるかどうか、降格に伴う減給が違法であるかに分けて考えます。
そして、降格の適法性は、降格が人事権の行使による場合と、懲戒処分による場合で区別して考えることになります。
以下、順番に説明していきます。
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(1)人事権行使による降格|逸脱・濫用に当たらない限りOK
まず、人事権の行使による降格の場合の、降格そのものに対する適法性についてです。
会社は従業員に対して、どのような業務を担当させるか、どの部署に配置するかなどに関する人事権を有しています。
一般的に、会社には、人事異動を行う際に広い裁量が認められています。そのため、会社が人事権の行使として従業員を降格させることについては、原則として適法です。
ただし、例外的に、人事権の逸脱・濫用に当たる場合には違法・無効となります。
以下に、具体例を紹介します。① 人事権の逸脱
労働契約に基づく人事権の範囲を超えて従業員を降格させた場合、人事権の逸脱に当たります。
(例)職務内容を管理職に限定して雇用した従業員を降格させて、新たに営業業務を担当させた
② 人事権の濫用
形式的には人事権の範囲内であるものの、その目的や手段が不当である場合には、人事権の濫用に当たります。
(例)軽い病気ですぐ復帰できるにもかかわらず、その病気を口実に降格させて閑職へ追いやった -
(2)懲戒処分としての降格|病気が理由の場合は違法の可能性大
懲戒処分の一種として降格処分を行うためには、就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。
しかし一般的には、病気に罹ったこと自体は従業員の非違行為に当たらないため、就業規則上の懲戒事由に該当しません。
仮に就業規則に「病気に罹ったこと」が懲戒事由として明記されていても、その条項そのものが公序良俗違反(民法第90条)により無効である可能性が高いといえます。
したがって、病気を理由に懲戒処分として従業員を降格させる行為は、違法・無効となる可能性が高いと考えられます。 -
(3)降格に伴う減給|ケースバイケース
従業員を降格させること自体は適法な場合でも、降格に伴って従業員に支払う給与を減らしてよいかどうかは、別途検討する必要があります。
減給が、労働契約に反する可能性があるからです。会社が従業員に対して支払う給与の額は、労働契約の内容に従って決まります。
したがって、降格に伴う減給が労働契約上当然に想定されている場合は、降格自体が適法であれば、それに伴う減給も適法と認められる可能性が高いです。
たとえば、基本給と役職給が明確に区分されていて、降格時には役職給が不支給(または格下げ)となることが明記されていれば、降格に伴う減給は適法と考えられます。
これに対して、降格に伴う減給があり得る旨が労働契約上明確でないにもかかわらず、降格させた従業員の給与を減額することは労働契約の内容の変更に当たり、労使の合意が必要です(労働契約法第8条)。
したがって、労働契約で想定されていない減給処分であるのに、従業員の承諾を得ていないのであれば、その減給処分は違法となります。
2、病気による降格が違法・無効となるケース
次に、病気による降格が違法となる可能性が高いケースを、具体的に3つ紹介します。
- ① 病気が軽症であり、すぐ業務に復帰できる場合
- ② 妊娠・出産等を理由に降格処分を行った場合
- ③ 病気の発症について会社の責任が大きい場合
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(1)病気が軽症であり、すぐ業務に復帰できる場合
従業員の病気が軽症であり、すぐに治癒して業務に復帰できる見込みが大きい場合には、従業員を降格させる必要はありません。
このような場合に、病気を理由として会社が従業員を降格させることは、人事権の濫用に当たり違法・無効となる可能性が高いです。 -
(2)妊娠・出産等を理由に降格処分を行った場合
女性従業員の体調不良等が妊娠・出産に関する以下の事由に起因する場合、会社が女性従業員に対して不利益な取り扱いをすることは禁止されます(男女雇用機会均等法第9条第3項、同法施行規則第2条の2)。
- ① 妊娠したこと
- ② 出産したこと
- ③ 妊娠中・出産後の健康管理に関する措置を求め、または当該措置を受けたこと
- ④ 妊娠中であるために、法律の規定等により業務に従事できなかったこと
- ⑤ 産前産後休業を請求し、または取得したこと
- ⑥ 妊娠中において、他の軽易な業務への転換を請求し、または当該請求により他の軽易な業務へ転換したこと
- ⑦ 妊娠中に時間外労働・休日労働・深夜労働を指示しないことを請求し、または当該請求により時間外労働・休日労働・深夜労働をしなかったこと
- ⑧ 育児時間を請求したこと
- ⑨ 妊娠・出産に起因する症状により労務の提供ができないこと・できなかったこと、または労働能率が低下したこと
特に、つわり(悪阻)がひどいなど、妊娠に起因する体調不良を理由とする不利益処分が禁止されている点には注意が必要です(上記⑨)。このような場合は、降格処分は無効となる可能性が高いです。
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(3)病気の発症について会社の責任が大きい場合
従業員が病気を発症したことにつき、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)または使用者責任(民法第715条第1項)が認められる場合、その病気を理由とする降格処分は、人事権の濫用として違法・無効となる可能性が高いです。
たとえば、長時間労働やパワハラなどに起因して病気を発症した場合には、病気を理由とする降格処分は認められない可能性が高いと考えられます。
3、仕事が原因で病気になった場合の対処法
仕事が原因で病気になった場合は、労災(労働災害)に該当します。労災保険給付の対象となるほか、会社に対して損害賠償を請求できる場合もあります。
この場合、降格処分の無効を主張することもできますが、それ以外の請求を行って金銭的補償を得ることも有力な選択肢です。
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(1)労災保険給付を請求する
仕事が原因で病気になった場合に、受給できる主な労災保険給付は以下のとおりです。
① 療養補償給付
労災病院または労災保険指定医療機関において、診察や治療を無料で受けられます。それ以外の医療機関で治療を受けた場合は、要した費用全額の償還を受けられます。
② 休業補償給付
病気の治療やリハビリのため、仕事を休んだ期間に応じて収入補償を受けられます。
③ 障害補償給付
病気が完治せず後遺症が残った場合に、失われた労働能力に対応する逸失利益が補償されます。
④ その他
要件を満たせば、遺族補償給付、葬祭料・葬祭給付、傷病補償給付、介護補償給付を受けられます。
各労災保険給付は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に請求できます(労災病院または労災保険指定医療機関における診察・治療については、医療機関の窓口で手続きを行います)。
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(2)会社に損害賠償を請求する
会社に安全配慮義務違反または使用者責任が認められる場合には、会社に対して労災の損害賠償を請求できます。
① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
労働者が心身の安全を確保しながら労働できるようにするため、会社が必要な配慮を怠った結果として労災が発生した場合には、会社は被災労働者に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。
② 使用者責任(民法第715条第1項)
会社の従業員の故意または過失によって労災が発生した場合には、会社も被災労働者に対して、使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。
なお、すでに労災保険給付を受けている場合でも、その額が実損害に不足する場合には、不足額について会社に損害賠償を請求可能です。
4、不当な降格などの不利益処分については弁護士にご相談を
病気を理由に会社から不当な降格処分を受けた場合には、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、会社による処分の不当性を主張するための法律構成を検討し、あるべき待遇の回復を求めて徹底的に争います。また、具体的な事情によっては、会社に対する損害賠償を請求する場合もあります。
会社から不当に不利益な取り扱いを受けた場合、労働者としての権利を回復するためには、弁護士のサポートが役立ちます。会社との間にトラブルが生じた場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
病気を理由に企業が従業員を降格させることは、違法・無効となる可能性があります。
さらに、病気が業務上の原因による場合には、会社に対して損害賠償を請求できる場合もあります。どのような手段で労働者としての権利を主張すべきかについては、弁護士のアドバイスをお求めください。
ベリーベスト法律事務所は、労使トラブルに関する従業員からのご相談を随時受け付けております。病気を理由に会社から不利益な取り扱いを受けてしまった方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 立川オフィスにご相談ください。
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