相続権には時効がある? 遺産分割協議の注意点も弁護士が解説
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立川市の平成31年1月1日時点の人口は18万3822人で、65歳以上の人口は4万4580人でした。65歳以上の高齢者が全体に占める割合は、24%以上であり、立川市でも高齢化が進んでいます。
今後も高齢化が進行することで、相続が発生する件数も増えていくことが予想されます。
さて、面倒だからといって、相続の手続きを後回しにしている方もいるでしょう。しかし、相続手続きの中には、一定の期間内にしなければ、できなくなってしまう手続きや請求もあります。
今回は、相続権の時効から遺産分割協議の注意点まで、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、相続権に関する主な4つの時効
相続権についても時効(期限)が関係する場合があることをご存じでしょうか。親が亡くなり、葬儀や法事などで忙しくて、相続手続きを後回しにしている方も多いかもしれません。しかし、長期間手続きを放置していると、時効が成立して、せっかくの権利を失ってしまうおそれもあります。
以下では、代表的な相続権について時効との関係を説明します。
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(1)遺産分割請求権
亡くなった方が遺言を残していなかった場合、亡くなった方の遺産を分けるためには、相続人全員が話し合いをして遺産の分割をしなければなりません。この話し合いのことを「遺産分割協議」といい、各相続人が遺産分割協議を求める権利を「遺産分割請求権」といいます。
遺産分割請求権には、時効はないため、相続開始から5年後や10年後など長期間経過していたとしても、遺産分割をすることは可能です。
もっとも、あまりにも長期間が経過している場合だと、相続人が行方不明になってしまう、遺産の管理が負担になる、などのデメリットが生じますので、できる限り早めに手続きをとるとよいでしょう。 -
(2)相続放棄
相続放棄とは、亡くなった方の財産(資産・負債)についての権利を放棄する制度です。亡くなった方に多額の借金があるような場合に、借金を相続するということから免れるために利用されます。
相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内にしなければなりません。この期間を、「熟慮期間」といいます。
家族が亡くなった場合、ばたばたしていると3か月という期間は、あっという間に過ぎてしまいます。3か月経過後の相続放棄は、原則として認められませんので十分に注意してください。
なお、3か月の期間では相続放棄するかどうか判断できない場合には、家庭裁判所に申し立てをすることによって、熟慮期間の伸長が認められる場合もあります。また、亡くなった方の借金の存在に気付くことができなかったなど、特別の事情がある場合には、3か月経過後の相続放棄も認められる場合があります。 -
(3)遺留分侵害額請求権
法律上、相続人に保障された最低限の遺産取得分のことを「遺留分」といいます。遺留分侵害額請求権(かつては遺留分減殺請求と呼ばれていたものです)とは、自己の最低限の遺産取得分を取り戻す権利のことをいいます。
これは、亡くなった方が特定の相続人に遺産のほとんどを譲る内容の遺言を残した場合等に、相続人が最低限の遺産取得分を侵害されたとして、行使することがみられます。
遺留分侵害額請求権の時効は、遺留分侵害の事実を知ったときから1年、または、相続開始のときから10年です。発見された遺言の内容が自分の遺留分を侵害する内容だった場合には、発見したときから1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければなりません。 -
(4)相続回復請求権
相続回復請求権とは、真正な相続人が、表見相続人(相続人であると自称している者)に対し、侵害を排して相続権を回復させる権利をいいます。たとえば、虚偽の出生届や無効な養子縁組などにより本来は相続人ではないのに戸籍上相続人とされる者が遺産を相続した場合に、遺産の返還を求める場面で問題となる権利です。
相続回復請求権の時効は、相続権を侵害されたことを知ったときから5年、または、相続開始から20年です。
2、遺産分割協議(遺産分割請求権)の注意点
遺産分割協議(遺産分割請求権)には、時効はないということはすでに説明しました。しかし、時効がないからといって、長期間放置していると以下のようなデメリットが生じるおそれがありますので注意してください。
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(1)相続税の申告期限との関係
遺産が相続税の基礎控除額を上回る場合には、相続税の申告が必要になります。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)
相続税の申告が必要な場合、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割協議自体には期間制限はありませんが、相続税の申告との関係では、10か月以内に遺産分割を終え、相続税の申告をしなければなりません。
遺産分割を長期間放置して、相続税の申告期限を過ぎると、多額の加算税や延滞税を支払わなければならなくなり、相続税計算に有利な特例の適用を受けることができないというリスクがあります。
場合によっては、遺産分割協議の内容を踏まえて、修正申告をすることもあります。そのため、相続税の申告が必要なケースでは、すみやかに税理士や弁護士に相談し、遺産分割の協議と併せて対応をされるとよいでしょう。 -
(2)遺産と消滅時効との関係
遺産分割協議自体には時効はありませんが、遺産を構成する個々の債権については、個別に時効が成立します。
たとえば、生前に誰かにお金を貸していた場合については、時効の中断がない限り、10年で消滅してしまいます。また、一部の相続人により遺産の使い込みが発覚した場合、不当利得として返還を求めることになりますが、その場合、使い込みが発覚したときから5年または使い込みから10年で時効になり権利を行使することができなくなってしまうのです。
このように、実際には、長期間遺産分割を放置していると、本来もらえるはずであった遺産を失ってしまうといった事態が考えられます。そのため、できるだけ早く遺産分割を行うようにしましょう。 -
(3)遺産と取得時効との関係
取得時効とは、一定期間、所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の物を占有した者が、その所有権を取得するという制度です。
遺産に不動産があるときに、ある相続人がその不動産に長期間居住していた場合、時効によって所有権を取得することはあるのでしょうか。
相続との関係では、「所有の意思」があったかがポイントになります。しかし、通常、相続人は、他に相続人がいることを知っていますので、当該不動産を自分だけのものであると認識していることはありません。そのため、長期間住み続けているというだけでは取得時効が成立することはありません。
ただし、例外的に所有の意思が認められるケースもありますので、遺産分割を長期間放置することは避けましょう。
3、相続権の時効を中断する方法とは?
相続権の時効で主に問題となる権利は、「遺留分侵害額請求権」と「相続回復請求権」の二つです。
いずれの権利についても、時効で消滅させないためには、時効が完成する前に、請求者が権利を行使する必要があります。権利行使の方法については、法律上の指定はありませんが、証拠として残すために、内容証明郵便で「遺留分を請求する」「相続回復を求める」ことを伝えることがよいでしょう。
なお、遺留分侵害額請求権を行使した後は、通常の金銭債権と同じになりますので、5年で時効消滅する点にも注意が必要です。
4、相続権の時効が過ぎた場合の対処法は?
相続権の時効が過ぎてしまった場合、原則として、権利を主張することはできなくなります。そのため、相続が発生した場合には、できるだけ早く弁護士に相談するなどして、相続権が時効にかからないようにしましょう。
相続に関する時効は、いつ相続があったのかを知ったのかがポイントになります。また、相続放棄をするかを3か月以上かけて考えたりする必要がある、というときには、熟慮期間の伸長の申し立てをすみやかに検討する必要があります。
時効の問題は、時効が完成してからは対応が難しいことも多いです。相続の話し合いが長引きそうだ、というときや、相続権の時効が気になるというときには、お早めに弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
5、まとめ
遺産分割協議には時効はありませんが、遺産分割を長期間放置してもよいことはありません。
時効期間が経過してしまうと、本来得られるはずであった財産を失ってしまうかもしれません。現在、民法が改正され、時効の判断も複雑になっており、相続権の時効の問題については、相続問題に関する経験が豊富な弁護士に相談した方が安心です。
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