名ばかり管理職なら残業代をもらえる! 請求のためにするべきこと
- 残業代請求
- 残業代
- 管理職
司法統計によると、ここ立川市を管轄する東京地方裁判所では、令和元年度中に1150件もの労働審判が行われました。
いわゆる「名ばかり管理職」であるにもかかわらず、社長から「管理職は残業代が出ないから」と言われたなど、理不尽な扱いに不満を感じている方がいることでしょう。残業代を支払わない会社を相手に未払い分を請求するとき、労働審判を行うケースは少なくありません。
本コラムでは管理職の方たちの残業代に着目し、違法性や請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代が支払われないのは違法?
まずは企業が管理職の方たちに残業代を支払わない根拠や、その違法性を確認しましょう。
-
(1)時間外労働と割増賃金
まず、前提として、労働基準法では、どのような労働時間や残業代についての規定があるのでしょうか。
● 労働時間
労働基準法第32条では、原則として1日8時間、1週間40時間以上の労働は禁止されています。使用者は、労働者に対し、超過した時間分には残業代を支払う義務があります。
● 休憩時間
労働基準法34条では、労働者は1日6時間以上の労働をする場合は45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を取らなければいけません。
● 割増賃金
使用者は、労働者が、1日8時間以上の労働や、休日労働をした場合、2割5分~5割の割増賃金を支払わなければなりません。また、時間外労働が1か月60時間を超えた場合は、5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
たとえば、1時間あたり1000円で就労していると計算される者について、法定労働時間を超える労働があった場合、使用者は、労働者に対し、超過労働分について、1時間あたり1250円以上を支払わなければなりません。
● 深夜・休日割増
割増賃金は、休日労働や深夜業に対しても発生します。休日労働とは、法定休日に労働することをいいます。法定休日は労働基準法にて、週1日、または4週で4日の休日と定められており、曜日は問いません。休日労働をした労働者には、通常の賃金の3割5分以上の割増賃金が支払われます。一方、深夜業とは、22時から翌日午前5時までの間に労働することをいい、2割5分以上の割増賃金が支払われます。
さて、勤務した時間によっては、複数の割増賃金の規定が該当することもあります。この場合は、該当する規定を両方、換算することになります(※)。たとえば、以下のように計算します。- 時間外労働+深夜業……合計5割以上(2割5分+2割5分)の割増賃金
- 休日労働+深夜業……6割以上(3割5分+2割5分)
※法定休日は労働をしない日であるため、法定労働時間そのものが存在しません。そのため、休日労働の場合、時間外労働に対する割増賃金は発生しないことになります。
-
(2)管理監督者と時間外労働・割増賃金
労働基準法は、(1)で紹介した時間外労働や割増賃金についての規定を、「監督若しくは管理の地位にある者」=管理監督者については、その適用を除外する旨の規定を設けています(労働基準法41条2号、柱書)。そのため、使用者は、管理監督者に対しては、時間外労働についての賃金や、その割り増し分を支払わなくてもよい、ということになります(深夜割増賃金は除く)。
労働基準法は、使用者という強い立場の者から、労働者という弱い立場の者を保護するための法律です。しかし、会社の経営方針決定に参画していたり、自身の労働時間について裁量権があるなど、弱者にあたらない者には、同法による「保護」がなじみません。また、社内において重要な立場にある者は、一般の労働者以上の業務に従事する必要があり、事業経営上、法適用を緩和する必要性もあります。
そのため、労働にあたり強い権限をもつ管理監督者は、通常の労働者とは異なる扱いを受けることになるのです。
2、そもそも管理職とは?
それでは、労働基準法41条2号に規定される、「監督若しくは管理の地位にある者」とは、どういった地位の労働者を指すのでしょうか。
管理職の方への未払い残業代が発生している大きな原因として、使用者側が、「管理監督者」という言葉の定義について誤った解釈していることが考えられます。管理職の定義や、それに該当する方について解説します。
-
(1)管理職の定義
管理職とは一般的に、係長や課長、店長など、企業が独自に設定した役職のことを指すケースが多いようです。
しかし、法律上の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)とは、単に役職名によらず、職務内容、責任と権限、勤務様態、給与形態などの実態を総合的に勘案して判断するとされています。すなわち、一般的に認識されている管理職と労働基準法における管理監督者は、必ずしもイコール関係にあるわけではないのです。 -
(2)管理監督者に該当するか否かの判断
裁判所は、当該労働者が、労働基準法に規定される管理監督者に該当するか否かについて、以下のポイントを総合的に考慮して判断します。
以下に挙げる全ての事項を総合的に考慮して判断がなされますので、どれか一つにでも該当すれば管理監督者、というわけではありませんし、反対に、どれか一つにでも該当しないから管理監督者ではない、という判断にもなりませんのでご注意ください。
① 経営者と一体的な立場にあるか否か
企業の経営方針など、経営に関する重要事項の決定に参画する権限を有している、または労務管理に関する指揮監督権のいずれかを有していることが判断の基礎となります。
たとえば、採用や解雇、人事考課、残業命令などについて裁量権をもっているか否かが重要視されます。
② 労働時間が管理されているか否か
出勤時刻や退勤時刻について定められていない、あるいはタイムカードを打刻する必要がないなど、社内における労働時間の規則に縛られず、事故の裁量において就労する環境が整えられていることも重要です。遅刻をした場合に減給処分を受けるなど、他の社員と同様、厳密に時間管理されているような場合は管理監督者とは呼べません。
③ 管理監督者にふさわしい経済的待遇を受けているか否か
当該労働者が他の労働者に比べ経済的な優遇を受けている場合、具体的には、職務の重要性に見合う手当が支払われていたり、賞与について優遇を受けていることも、管理監督者該当性の考慮要素となります -
(3)代表的な裁判例
残業代請求の裁判においては、労働者の残業代請求に対し、使用者側(被告)が、「労働者(原告)は管理監督者に当たるため残業代は支払わない」との主張をする、という流れになる場面が多いです。
裁判所や法は、労働者の保護に厚く、労働者の管理監督者性は否定される(=残業代の支払いが命じられる)傾向にあるのが実情です。
管理監督者性についての代表的な裁判例には、以下のものがあります。
【日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日)】
店長以上の職位の従業員は管理監督者(労基法41条2号)として扱う、と就業規則で定められているハンバーガー販売会社店長が、過去2年分の割増賃金の支払い等を求めた事案です。
東京地裁は、店長職と管理監督者の定義を比べ、以下のように示しました。- 本件店長は、アルバイトの採用・育成や勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営について重要な職責を負ってはいる。
- しかし、その権限はあくまで店舗内に限られ、経営者と一体的な立場での重要な職務・権限を付与されているとはいいがたい。
- 賃金実態も管理監督者の待遇として十分とはいいがたい。
- そのため、管理監督者に当たるとは認められない。
この事件における店長は、ある程度の重要な地位にあるが、あくまでもごく内部的な決定権を有しているにすぎないことが、管理監督者性を否定される要因となりました。
また、当該店長の賃金実態として、- ① 店長とその下位職位との賃金差額は年44万6943円にとどまり、深夜割増分を入れた場合、さらに少額な差異にとどまること
- ② 店長に支給される各種インセンティブは、一定の業績達成を条件として支給されるもの=全ての店長に支給されるものではないこと
- ③ 店長以下の従業員もインセンティブ支給の対象でありインセンティブ支給が店長特有のものでないこと
なども、管理監督者性が否定される重要なポイントとなりました。
3、管理職が残業代を請求する方法と注意点
管理職になっても自らの裁量が増えるわけでもなく、業務内容や賃金・手当・賞与がほとんど変わっていないのに残業代がもらえない。そのような状況に納得がいかない場合は、次の方法で請求することができます。
注意点も含めて確認しましょう。
-
(1)企業と交渉を行う
企業に対し、自身が労働基準法上の管理監督者にあたらないこと、そのために未払い残業代が発生していることを伝え、是正を求めます。
もっとも、本来支払うべき賃金を支払わないような会社と、いち従業員との交渉がうまく運ぶ可能性は低いです。したがって、以下の手段が有益となります。 -
(2)労働基準監督署への申告
企業が交渉に応じない場合、あるいは応じないことが予想される場合には、労働基準監督署での相談をすることもできます。
しかし、労働基準監督署は、あくまでも企業を監督する立場です。あなた個人の未払い残業代請求の交渉を代わりに対応してくれるわけではありません。 -
(3)弁護士を介して交渉する
未払い残業代の支払いを受けるためには、弁護士に対応を依頼することが最善です。
依頼を受けた弁護士は、弁護士が就任した旨、及び未払賃金請求の根拠について記した内容証明郵便を使用者に送付し、交渉を開始します。
弁護士を入れて、具体的金額や根拠を記した内容証明郵便を送ることで、使用者側は、労働者の真剣さや法的根拠を知り、真摯な対応をするケースが少なくありません。
交渉で合意に至ることができなかった場合は、労働審判、あるいは訴訟という手続きを採り、裁判所という公的な機関を通じて賃金請求を行い、裁判官の適切な判断を仰ぐことも可能です。
審判に必要な申立書や、裁判に必要な訴状の準備は、専門家である弁護士に委ねることがベストです。 -
(4)残業代請求の時効に注意
残業代を含めた賃金請求権の時効は3年(※)です。未払い残業代が発生してから何年も経過している場合、3年以上前のものについては請求できないおそれがあります。ただし、企業が任意で支払う可能性は残りますので、できる限りさかのぼって証拠を集めておいた方がよいでしょう。
※法改正により、令和2年4月1日以降に支払期日が到来した賃金については、時効が「3年間」となっていますが、令和2年3月31日以前に支払期日が到来した賃金については、時効は「2年間」です。
4、まとめ
今回は管理職の方の残業代について、未払いの場合の違法性や請求方法を解説しました。管理職であっても一律に残業代が支払われないものではありません。労働基準法上の管理監督者にあたらなければ、残業代や割増賃金を受け取る権利がありますし、また、裁判所が労働者の管理監督者性を否定した事例は数多く存在します。
労働トラブルを個人の力で解決することは容易ではありません。企業との力の差があることはもちろん、法律知識や交渉術なども求められます。できるだけ早い段階で弁護士などに相談される方がよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 立川オフィスでもご相談をお受けしています。未払い賃金の請求可能性や今後の対処法に関するアドバイスを行うほか、実際の請求場面でもサポートします。まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています