日給制・月給制の残業代|正しい計算方法を給与形態別に徹底解説!
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東京都が公表している労働時間の統計資料によると、令和5年における事業規模5人以上の一般労働者の残業時間(所定外労働時間)の月平均は14.6時間でした。
残業をした場合、会社から残業手当が支払われることになります。しかし、日給制と月給制では計算方法が異なることをご存じでしょうか。そのため、会社から支払われている残業代が適切なものか、個人で判断するのが難しい場合があるのです。
本コラムでは、日給制や月給制、歩合給制、年俸制まで、給与形態別の残業代計算方法の基本について、ベリーベスト法律事務所 立川オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代(割増賃金)の基本的な計算方法
残業をした場合には、残業時間に応じた割増賃金が支払われることになりますが、どのように計算をするのでしょうか。以下では、割増賃金の基本的な計算方法を説明します。
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(1)基本的な残業代の計算方法
労働基準法では、使用者が労働者に対して「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」をさせた場合には、基礎賃金に一定の割増率をかけた割増賃金の支払いをしなければならないとされています(労働基準法37条)。
会社に対して残業代を請求する場合には、この割増賃金の計算方法をしっかりと理解しておく必要があります。
なお、以下では、「残業代」とは、所定内労働時間に残業時間に相当する時間分労働した場合に支払われるべき賃金に、割増賃金を加えたものとして説明します。
割増賃金および残業代は、以下のような計算式を用いて算出します。
割増賃金 =1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率 残業代 =1時間あたりの基礎賃金×残業時間×(1+割増率) -
(2)各項目の説明│基礎賃金・残業時間・割増率
割増賃金を計算するためには、「1時間あたりの基礎賃金」、「残業時間」、「割増率」を明らかにする必要があります。それぞれの算出方法は以下のとおりです。
① 1時間あたりの基礎賃金
割増賃金の計算の際には、「1時間あたりの基礎賃金」という時間単価を用いることになります。
この1時間あたりの基礎賃金は、月給制の場合、以下のような計算式によって算出します(労働基準法施行規則19条4号)。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷月平均所定労働時間
「月平均所定労働時間」とは、年間でみたときの月平均の所定労働時間のことをいい、以下の計算式によって算出します。
月平均所定労働時間=(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12か月
または(366日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12か月(うるう年)
年間休日105日、1日8時間労働であれば、(365-105)×8÷12≒173.3ですので、月平均所定労働時間は、173.3時間となります。
なお、基礎賃金を計算する際の月給には、以下の手当は含みませんので注意してください(労働基準法37条5項、同施行規則21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
② 残業時間
残業時間には、「法定内残業」と「法定外残業」の2種類があります。
● 法定内残業
会社が規定する所定労働時間を超えてはいるが、法律で定められた法定労働時間内の残業
● 法定外残業
1日8時間、1週40時間という労働基準法で規定する法定労働時間を超えて行った残業
労働基準法が定める割増賃金の支払い義務が生じるのは、法定外残業です。そのため、割増賃金を計算する場合には、法定内残業と法定外残業をきちんと区別することが大切です。
③ 割増率
時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合には、労働基準法が定める割増率によって割増賃金を計算する必要があります。割増率は、以下のとおりです(労働基準法37条)。
- 時間外労働……25%以上(時間外労働が1か月60時間を超えたときは50%以上)
- 深夜労働……25%以上
- 休日労働……35%以上
なお、時間外労働と深夜労働が重なる場合には、時間外労働の25%以上の割増率と深夜労働の25%以上の割増率が加算され、合計50%以上の割増率で算出します。
2、日給・月給|それぞれの残業代の計算方法
日給制および月給制では、それぞれ残業代はどのように計算することになるのでしょうか。具体的なモデルケースを用いて説明します。
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(1)日給制の場合の残業代の計算方法
① 1時間あたりの基礎賃金
日給制がとられている会社では、日給の額を1日の平均所定労働時間数で割ることによって、1時間あたりの基礎賃金を算出することができます。
② 1日の平均所定労働時間
毎日同じ労働時間であれば、1日の所定労働時間が平均労働時間となります。
しかし、日によって所定労働時間数が異なる場合は、「1週間における1日平均所定労働時間数」で日給の額を割ることになります。(労働基準法施行規則19条2号)。
1日の平均所定労働時間=1週間の合計所定労働時間÷1週間の所定労働日数
③ 残業代の計算
この計算式を前提として、残業代を計算します。
【各条件】
- 日給1万0000円
- 精皆勤手当3000円(1か月休まず出勤した場合に支払われる賃金)
- 通勤手当6000円
- 年間所定休日122日
- 1日の所定労働時間8時間
【残業時間】
- 月に20時間の残業(深夜労働、休日労働を含まない)
上記のケースでは、基本給のほかに精皆勤手当、通勤手当の支払いがなされています。このうち、家族手当や通勤手当は、基礎賃金を計算する際の月給には含みません。そして、精勤手当は、月ごとに支払われる賃金となりますので、月給制と同様の計算方法となります。
【計算式】- 月平均所定労働時間=(365日-122日)×8時間÷12か月=162時間
- 1時間あたりの基礎賃金=(10000円÷8時間)+(3000円÷162時間)≒1269円
- 残業代=1269円×20時間×1.25%=3万1725円
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(2)月給制の場合の残業代の計算方法
月給制の場合には、「1、残業代(割増賃金)の基本的な計算方法 」で説明した計算方法によって割増賃金を計算することができます。
以下のモデルケースで、月給制の労働者の残業代を計算してみましょう。
【各条件】
- 基本給…23万5000円
- 精皆勤手当…8000円
- 年間所定休日…122日円
- 1日の所定労働時間…8時間
【残業時間】
- 月に20時間の残業(深夜労働、休日労働を含まない)
【計算式】
- 月平均所定労働時間=(365日-122日)×8時間÷12か月=162時間
- 1時間あたりの基礎賃金=(23万5000円+8000円)÷162日=1500円
- 残業代=1500円×20時間×1.25%=3万7500円
3、そのほか、残業代の計算方法
日給、月給制以外にも以下のような給料体系がとられている会社もあります。それぞれ残業代計算の方法が異なりますので、詳しく説明します。
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(1)歩合給制(出来高払い制)
歩合給制とは、個人の成績や売り上げによって給料が変動する給与体系のことをいいます。契約件数や契約高に応じて定められる賃金などです。歩合給制がとられていたとしても1日8時間、1週40時間という法定労働時間を超えて働いた場合には、日給、月給制と同様に残業代を請求することができます。
歩合給制の残業代を計算する場合、1時間あたりの基礎賃金額は、歩合給の算定期間において、歩合給制によって計算された賃金の総額を、その算定期間内における「総労働時間数」で割ったものとなります。そのため、残業代の計算では、固定給部分と歩合給部分を分けて計算します。
では、以下の条件での残業代はいくらになるのでしょうか。
【各条件】
- 歩合給の算定期間は、賃金の算定期間と同じ1か月
- 固定給…20万円
- 歩合給…15万円
- 月平均所定労働時間…160時間
【残業時間】
- 残業時間40時間(総労働時間は200時間(160時間+40時間))(深夜労働、休日労働を含まない)
【計算式】
① 固定給部分
1時間あたりの基礎賃金=20万円÷160時間=1250円
残業代=1250円×40時間×1.25%=6万2500円
② 歩合給部分
1時間あたりの基礎賃金=15万円÷200時間=750円
残業代=750円×40時間×1.25%=3万7500円
③ 残業代合計
6万2500円+3万7500円=10万0000円 -
(2)年俸制
年俸制とは、1年単位で給与を算出する給与体系のことをいいます。「年俸」という言葉からは、1年に1回しか給料が支払われないと思う方もいるかもしれませんが、労働基準法24条によって毎月1回以上の給料の支払いが義務付けられていますので、月給制と同様に年俸を分割した金額が毎月支払われることになります。
年俸制は、あくまでも給料の決め方になりますので、年俸制だからといって残業代の支払いが不要になるわけではありません。一般的な月給制と同様に1日8時間、1週40時間を超えて働いた場合には、法定の割増率によって計算をした割増賃金を支払われているはずです。受け取っていないのであれば、未払いの残業代がある可能性が高いといえます。正確に計算し、適切な支払いを会社に求めたい場合は、弁護士への相談を検討してください。
お問い合わせください。
4、未払い残業代は弁護士へ相談を
日給月給制問わず、未払いの残業代にお困りの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)残業代の計算には労働基準法の知識が不可欠
残業代を計算する際には、労働基準法などの関係法令に基づいて計算をする必要があるため、労働基準法などの知識が不可欠となります。現代の日本では、働き方や雇用形態が多様化し、それに伴い残業代の計算も複雑化しています。残業代の計算には非常に細かなルールがあるため、労働者個人で適切に計算するのは難しいといえます。
弁護士は、労働者の働き方に応じて適切に残業代を計算し、残業代計算に要する労力や誤った計算による不利益を回避することができます。 -
(2)残業代請求には証拠が必要
残業代を請求するためには、残業代が発生していることを証拠によって立証していかなければなりません。もし、タイムカードがない場合は業務日報、パソコンのログイン・ログアウト記録、メールの送信記録などによって残業の立証が可能なケースがあります。
どのような証拠が必要となるのかについては、個別具体的な状況によって異なってきますので、証拠収集については、労働トラブルの解決実績がある弁護士のサポートを受けながら進めていくことが大切です。 -
(3)会社との交渉を任せることができる
残業代請求をする場合には、まずは会社に対して請求をし、会社との間で話し合いをする必要があります。しかし、会社と労働者間では力関係の差が大きく、労働者個人で会社に残業代を請求したとしても、まともに対応してくれないということもあります。
弁護士は労働者の代理人として会社と交渉することができますので、弁護士に一任することにより、会社が交渉のテーブルにつく可能性が高くなります。また、会社と交渉する時間や精神的な負担も大幅に軽減されることになります。
5、まとめ
所定外労働時間を超えて残業をした場合、割増賃金が支払われます。これが一般的に「残業代」と呼ばれるものです。しかし、一口に残業代といっても日給制や月給制、歩合制など給与形態により計算方法は異なります。間違いのない適正な残業代を請求するには、弁護士に依頼することをおすすめします。
なお、残業代の請求には支払われるべき支給日から3年という期限があります。残業代請求をお考えの方は、お早めにベリーベスト法律事務所 立川オフィスまでご相談ください。ご依頼いただけば、未払い残業代請求の対応についての知見が豊富な弁護士が代理人となり、あなたが受け取れるはずの残業代を請求します。
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